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「門馬さん!」
今日の業務を終え、オフィスビルのエントランスで門馬さんが出てくるのを待っていた。
しばらくして現れた門馬さんは、ごく自然に私の元へ駆け寄る。
「待たせて悪い。寒いから中に居たら良かったのに」
まるで付き合っている彼女と待ち合わせしていたかの様な声のトーンと柔らかい表情に、思わずドキッとする。
だけどすぐに我に返って咳払いした。
「門馬さん、今日はありがとうございました」
「……今日?」
キョトンとする門馬さん。
まるで心当たりがないみたいだ。
「表彰してくださったのって、門馬さんが言ってくれたからですよね?」
門馬さんは真顔で首を振った。
「違う。俺は冨重に、もっと社員を大事にしろと言っただけだ。表彰を考えたのは冨重だし、お前を選んだのも社員達だ。……つまり、お前が自分の力で評価されたってわけ」
「門馬さん……」
またもや彼の言葉にじんときて、胸がいっぱいになる。
門馬さんは、私の涙腺クラッシャーだ。
「それより、これから買い物に行くぞ」
「買い物? 食材ですか? それなら私が」
「違う。お前の生活用品だ。ベッドや家具はネットで購入したが、細かいものは自分で選んだ方がいいだろ」
「ベッド!? 家具!? とんでもない! たった一ヶ月なのに」
彼は少しムッとして言った。
「いいだろ。俺の家なんだから、どうしようと俺の自由だ」
「でも、申し訳なくて……」
どうしていいかわからずに口ごもる私に、門馬さんは人差し指を立てる。
「お前、そういうとこがなっちゃない。人の厚意に素直に甘えることも、自己肯定感を上げる秘訣だ」
「は、はあ……」
「行くぞ」
まるで首根っこつかまえるように、私の腕を掴み歩き出す門馬さん。
彼の行動力に圧倒され、そのまま最寄り駅のビルに連れて行かれるのだった。
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