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ルームウェアにスリッパ、通勤着も数点。お箸やマグカップに、お茶碗などの食器一式。
どれも上質なものばかりで、使うのに躊躇しそう。
安価なものを買おうとする私に、質の良いものを持つことも自己肯定感アップに繋がると言ってきかなかった門馬さん。
「こんなにたくさん、すみません」
門馬さんは購入したばかりのグッズを抱え、何故か上機嫌だ。
「あの、門馬さん。やっぱりお金返します。ちゃんと貯金はあるので」
「遠慮するな。これから何かと物入りだろ。貯金は少しでも多く残しておいた方がいい」
「でも……」
本当にこの人は神様なんじゃないだろうか。
こんなに強引な神様、いる?
「そろそろ予約の時間だ。行くぞ」
門馬さんはふいに、腕時計を見て言った。
「……予約?」
「飯食いに行くぞ。美味い店知ってる」
「え!?」
一緒に食事をする為に、予約までしてくれたの?
ますます神対応の門馬さんに、泡を噴きそうになる。
なんだか、全てがもったいない。
私には身に余るようなことばかりで。
「すみません……」
「だから謝るなよ」
「すみません」
また謝ってしまったことにハッとして、咄嗟にもう一度謝る。
すると門馬さんは、面白がるように笑った。
「いいやもう、なんでも」
煙たがることも、呆れることもなく微笑んでくれる門馬さんに、ホッと胸を撫で下ろした。
この人といると安心する。
顔色を伺うことをしなくても、全てを受け入れて笑ってくれるから。
タクシーで連れて来てくれたのは、小規模で隠れ家のようなフレンチレストラン。
温もりのある木目調の内装で、天井にはプロペラが回っていた。
格式のあるレストランだと気後れして緊張してしまうから、この温かい雰囲気は有難かった。
「なんでも好きなものを選べ」
メニューを眺めながら言う門馬さん。
だけど私は、何度も料理名を上から下まで読み込むばかりで、一つも決められない。
優柔不断なのも、私の悪い癖だ。
「自分の好きなものを選ぶのも……」
彼が言いたいことはよくわかった。
「自己肯定感ですか?」
彼は黙って頷く。
私は苦笑して言った。
「面倒な人間ですみません」
「いや……ゆっくり選べ」
彼は優しい。
一つ一つ、料理の特徴や美味しいポイントなどを説明してくれるのだった。
その中から、特にオススメしてくれた数点を選ぶ。
お店の人にも勧められたシャンパンで、私達は乾杯した。
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