人生やり直し計画

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「……なるほど、節分ってこんにゃくも食べるのね」  朝のリビングに一人。スマホでひたすら節分の風習について調べる。  門馬さんに「儀式をするぞ」と言われた土曜日。  彼は急遽セミナーの仕事が入り、早朝から家を出た。  昼過ぎには帰ると言っていたので、せっかくならと節分にちなんだ料理を用意しておくことに。 「こんにゃくの白和え、恵方巻、鰯のフリッター……」  メニューやレシピを調べるのは心が踊り、以前より料理が楽しくなった気がする。  門馬さんは無理するなと言うけれど、私にとってはここで暮らす一番の楽しみであり目的になった。  慎司と同棲していた時は、どこか役目のように気負っていた節があるけれど、今は違う。  もっと前向きで、能動的なものに変化した。 「自己肯定感、アップしてるかも」  そう呟いて、くすっと一人で笑う。  ……門馬さん、喜んでくれるかな。  そう思うと堪らなく幸せな気持ちになり、胸が大きく弾んだ。 「うっし、買い出し行ってこよう」  水色のコートを羽織り、門馬さんが買ってくれたショートブーツを履いて家を出る。  ちょうど同じタイミングで出てきたお隣さんと会釈をして、直後絶句した。 「……あれ? 麦田さん?」  栗色の髪の、爽やかイケメン。 「冨重社長……」  ……まさかの社長。  何故門馬さん家のお隣に……  ハッとして、瞬時言い訳を考える。  何故私がこんなところに居るのか。  そもそも社長は、お隣さんが門馬さんだと知ってるんだろうか? 「え? 麦田さん、佑の彼女?」 「違います!」  ガッツリ知っていたし、ガッツリ誤解された。 「じゃあなんで佑の家に」 「じ、自己肯定感アップが云々で」 「自己肯定感?」  私達はそのまま二人でエレベーターを降りる。  その後、マンション前にある公園の遊歩道を歩きながら、私は腹を括って本当のことを洗いざらい話した。 「……なるほどねえ」  ラフなトレーニングウェアを着ている社長は、オフィスの時よりももっと若く見える。  門馬さん同様、キラキラしたオーラを放っていて、すれ違う女性達が皆彼を振り返っていく。 「驚いたな。佑が女性と住むなんて」  社長は言葉通り唖然とした表情をしていた。  佑と呼んでいるし、門馬さんのことをよく知っているような口振りだった。 「俺達、高校の時の同級生なのよ。このマンションも縁あって知人に紹介してもらって」 「そうだったんですか……」  なんて麗しい二人だろう。  高校生時代の二人が、学校の頂点に君臨し青春を謳歌したのは間違いなさそうだった。 「しかしアイツが麦田さんとねえ」    観察するように見つめられ、慌てて弁明を再開させた。 「す、全ては自己肯定感の為です!」 「まあアイツらしいか」  そう言って微笑む冨重社長。 「よっぽど麦田さんを気に入ったんだな」  その言葉に、ほのかに胸が熱くなる。 「じゃ、俺行くわ」  手を振って走り出す社長に頭を下げて、後ろ姿を見送った。  ……まさか、短期間で取引先のコンサルタントと同居し、勤め先の社長とお隣さんになるなんて。  今までの自分の人生とはかけ離れた展開に、固唾を飲むしかなかった。  
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