真冬の空に光る星

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 二月において、もう一つの大きなイベントと言えばバレンタイン。  節分の儀式を終えて数日、私は頭を悩ませていた。  ……門馬さんに何かプレゼントしたい。  バレンタインという名目はあるけれど、もちろん恋愛なんて意味ではなくて、日頃の感謝を込めて。  会社帰りにこっそりショッピングモールに寄ってはメンズものの商品を探しているけれど、彼が欲しそうなものは見つけられなかった。  そもそも、頭のてっぺんからつま先まで完璧な門馬さん。  身につけているものもインテリアも、一つ残らず上質でスタイリッシュなアイテムが揃い、足りないものなんてないように見える。  路頭に迷う寸前だった私に、とてもじゃないけど彼に見合うものを贈れるとは思えず、そんなお金があったら一刻も早くここを出た方が、よっぽど彼の為になることは一目瞭然だった。  ……実は、少しずつ転居先について調べていて、目星はつけてある。  引っ越そうと思えば数日後でも可能かもしれないけれど、狡い私は保留にしていた。  あともう少しだけ、門馬さんの家で暮らしてみたい。  彼といると、自分のことが、自分の生活や人生のことが、ほんの少し愛しく思えるんだ。  それは他でもなく、門馬さんの自己肯定感アップ計画の恩恵だった。  だけどそれだけじゃなくて。  ……門馬さんの笑顔や言葉を思い浮かべると、どうしようもなく胸が温かくなる。  彼の人柄自体に魅力があることを、この数日間でひしひしと思い知った。  恋というには畏れ多いけど。  目の前の製菓用チョコレートや小麦粉を眺め、体温が熱くなるのを感じた。 「違う! これはお礼の気持ちだから!」  買ってきたケーキの型や泡立て器をテーブルに並べ、エプロンの紐をぎゅっと結ぶ。  14日。バレンタイン当日の夕方、門馬さんは自宅にいなかった。  先に帰宅した私は、さっと簡単な夕飯を作った後、あることに専念し始める。  結局思い浮かんだのは、手作りのガトーショコラ。  やっぱり私は、料理くらいしか彼の役に立てそうにない。  私の誕生日祝いに一緒にケーキを食べてくれたし、甘いものが苦手ではなさそう。  少しほろ苦い大人のガトーショコラ、喜んでくれたらいいんだけど。 ────「遅くなった!」  調理にとりかかった瞬間に玄関から声が聞こえ、思わず肩が跳ねた。  早く帰って来られたのは良かったけど、今これを作っていることがバレるのは気まずい。      
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