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女の幸せってなんですか?
就活、恋愛、結婚、子育て。
女として産まれた、わたしの幸せ。
わたしは、大人になったので、おそらくそうならなくてはいけないようだった。
なので、わたしは旅に出ることにした。
そう、所謂、自分探しの旅、である。
わたしは、恋愛をしたことがないし、友達もいないけれど、大人になったのだから、しなくてはいけない。
そんなお金、何処にあるんだと思われるだろうが、そんなもの、なんとかなる。学生時代貯めたアルバイトのお金もあるし、もうどうにでもなるのだ。
「あかね!」
呼び止める母の声を他所にわたしは、家を飛び出した。
これが、大人か。
キラキラ光る夜景を見ながら、私はこの街から逃げ出した。
初めて出会ったのは、田舎の老夫婦だった。
「こんなド田舎にお前なにしに来たんだ?」
「自分探しの旅」
「はぁ………随分と暇なんだべな」
暇て。確かにその通りだ。
わたしは立派なしてぃがーるになるつもりではあるが、取り敢えず誰も私のことを知らない場所に行こうと思い、1次産業に手を出した。
ここで音をあげるようなら、わたしはこの先、生きられないだろう。
仕事内容、労働環境、人間関係には特に不満はなかったが、特に出会いもなかったので、わたしは老夫婦と1年でお別れした。
老夫婦に渡された餞別は、今でも大切にしている。
次に出会ったのは、胡散臭い男だった。
年齢は父と同じくらいで、「君には光るものがある!」と熱弁していた。
とりあえず、働き口がなかったので、飲食接客業たるものをやってみることにした。
「あんた、外れたわねぇ」
同僚に言われた。
あの人誰にでもあぁやって言うのよ、アンタ若いのに。こんなところで油売ってちゃダメよ。
「油を売ってるつもりはないのですが……」
その後、飲食接客業のいろはを学んだわたしは、新しく入ってきた後輩に目の敵にされ、無事、足を洗うことになった。
辞めるとなった時の胡散臭い男の顔は、あの時と何も変わらない顔で、わたしはなんだか面白かった。
きっと彼らはこんな風に生きていくのだろう。
その次に出会ったのは、バリバリのキャリアウーマンだった。隣町の無名の中小企業に就職したわたしは、彼女の秘書として仕事をすることになった。秘書と言っても雑用であった。
彼女は完璧で、わたしなんか眼中になかった。
彼女は、まるでわたしを人形のように扱った。
口を開けば、無能、出来損ない、役立たず。
わたしは、彼女から見れば本当の事だったので、わたしは特に気にもしていなかった。気にしていたのは、時間のことだけだ。
いつの間にか、彼女はパワハラで解雇されていた。彼女は、左手の薬指を煌めかせながら、わたしに言った。
「疫病神め!」
わたしはなんだか疲れてしまったので、この仕事を辞めた。
わたしは実家に帰ることはせず、最初の老夫婦の元を訪れていた。
老夫婦は暖かく受け入れてくれた。
そこには、老夫婦のお孫さんもいた。
どうやら社会に嫌気が差し、ここにひきこもってしまっているとのことだった。
社会のハズレ者同士、私たちはやけに馬があった。
「どうしてこんなド田舎なんかに?」
「さぁ……確か、自分探しの旅だったような」
なんだか、旅を続けているうちに、主題を忘れつつあった。
大人になるということはこういうことなのかもしれなかった。
大人は生きることに必死で、大切なことも忘れてしまうのだ。
「大人になったから、女の幸せを探さないと」
「女の幸せぇ?」
孫は素っ頓狂な声を上げた。
「なんだよそれ」
「就活、結婚、恋愛、子育て」
「それって本当にしなきゃいけないことなわけ?」
「だって、そうしないと」
おばあちゃんが悲しむんだもの。
わたしを育ててくれたおばあちゃん。
おばあちゃんは私のことも分からなくなってしまっていた。
わたしはそれが怖くて、でも大人にならなきゃいけなくて、逃げ出したのだ。
女の幸せなんて知らない。
私の幸せなんて分からない。
もう全てが遅いのかもしれない。
「会いに行けば?」
「え」
「ばあちゃん、どうなってるのか気になんだろ」
「それは……そうだけど」
「1人で、家飛び出せるんだから、なんてことないよ、お前ならできるって」
まだ遅くはないだろ?
その言葉に背中を押されて、わたしは1歩踏み出した。
「その後どうなったか、だって?」
わたしは、小さな頭を撫でる。
不服そうにわたしを眺めるその瞳に向かって、わたしは笑った。
しわくちゃになっても、つらいことがあっても、なにがあっても。
「わたしの旅はおわらないのよ」
そう、わたししか知らない、旅路なのだから。
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