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「あっ、ノエルったらまた寝巻きのまま外に出て! やっと風邪治ったばかりでしょ。ほら、早く着替えて朝ごはん食べて。今日は忙しいんだから」
エプロン姿のお母さんがドアから顔を出した。
「はあい」
「私はバザーの用意があるから先に行ってるわよ」
お母さんは昨日から大きな木箱に手作りのハーブティーやポプリを大量に詰め込んでいた。
「お父さんは設営?」
「うん。今はパン焼き窯のところにいると思うわ。困ったことに片方のパン焼き窯の調子が悪いらしいのよ」
お母さん口ではそう言いながらどこか楽しげだ。大昔は自宅でパンを焼く習慣がなく、決められた人間が広場のパン焼き窯でパンを作り、人々に売っていたらしい。イベントでは二つのパン焼き窯で昔ながらのパンを焼くことになっていた。
「じゃ、行ってくるわね」
慌ただしく広場に向かって行った。
「魔法が生きる街、ロマランへようこそか……」
テーブルの上に置かれたポスターをちらりと見る。自分が生まれた時にはすでに魔法使いや魔女が住む街として観光地になっていた。
「魔法ねえ」
呪文を唱えるとポスターは、ゆらゆらと頼りなげに宙に浮き、ぱさりと落ちた。
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