梓 ③

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梓 ③

「お時間を取らせてしまい、すみませんでした。それでは失礼します」  玄関で見送る蓮と真司に梓は丁寧に頭を下げると帰っていった。 「蓮、素敵なお義母さんだったね」 「うん」  梓の事を褒められて、蓮も少し嬉しそうだった。 「でも、お義母さんが来られてるんだったら、そう言ってくれればよかったのに。じゃあもっと……」 「もっと早くに帰ってきたのに…だろ?」  蓮は真司の考えが分かっていたかのようだった。 「梓さんが自分が来ている事は真司に知らさないで欲しいって……。真司の仕事の迷惑になりたくないって。もし会えなかったら、また来るって。でも一応真司には早く帰ってきてって伝えておきたくて……。仕事中にごめん」 「そうだったんだ。連絡ありがとう。俺も梓さんにきちんと会えて嬉しかったよ」 そういう気を使うところ、蓮と似てるな……。 そんな梓さんが言うから大丈夫だ。 蓮のお父さんの事はお任せしよう。 「俺、梓さんが家に来るって聞いた時、別れなさいって言う話をされるんだと思ってた」  蓮の気持ちではないが、蓮の口から『別れ』と言う言葉が出ただけで、真司は胸が苦しくなった。 「でも、そうじゃなくて、父さんを説得するって言いにきてくれたんだったなんて。家族に認められるって、こんなに嬉しいもんなんだな」  嬉しそうに微笑む蓮を見て、真司はギュッと抱きしめた。 蓮は一人でこんなに辛い思いを背負ってきたなんて……。 「蓮、今まで、よく頑張ってきたね……」 「うん……がんばった……」  真司が蓮の頭をポンポンと叩くと、蓮が真司の肩に顔をうずめた。  梓が二人の家を訪れてから、真司は仕事が立て込み、バタバタする日々を送っていた。  蓮は蓮で、大口の契約が取れた仕事が本格始動し始め、二人の時間はますます少なくなってきていた。  そんな中、真司は梓と蓮が言った言葉と笑顔が、ずっと心に引っかかっていた。 『子供の幸せを願わない親なんていませんよ』 『家族に認められるって、こんなに嬉しいもんなんだな』 あの二人の笑顔が忘れられない。 一人で頑張ってきた蓮に俺はなにが出来るんだろう……。 俺も、あと一歩進むべきなんじゃないか? これからの二人にとって大切な何か。 俺の出来ること……。 「蓮、今いい?」  真司は書斎で仕事をしていた蓮に声を掛けた。 「ん? どうした?」  蓮はかけていたメガネを外し、微笑みながら真司の方に向き直した。 「あのさ……もし、蓮がよかったら、俺の母さんに会ってくれないか……?」 「え!?」  蓮の笑顔が一瞬固まる。 「来週の日曜、姉さんの子供の誕生会があって、母さんがこっちまで出てくるんだ。だからその時に……」 「……」 「蓮は俺の恋人だって、大切な人だって知ってもらいたくて」 「……」  蓮はしばらく黙り込んで、 「真司はそれでいいの? 俺の事、友達じゃなくて…恋人だって紹介して……」 「もちろん!」 「でも、俺、男だし……」  蓮が口籠る。 「俺は、蓮だからこそ、ちゃんと母さんに紹介したいんだ」 「……」 「でも、蓮が嫌だったら無理強いはしないよ」  真司は口籠ったままの蓮をそっと抱きしめる。 「真司が本当にそれでいいなら……」  蓮も真司の背中に腕をまわた。 「蓮、ありがとう!」  真司は嬉しさのあまり蓮をより抱きしめたが、その時、蓮の腕が震えていたことに真司は気がついていなかった。
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