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出逢い
ーーいいにおいーー
ーーこの香り……何だんだろうーー
そんな事を考えながら、真司は目覚めた。
起き上がろうとすると、体の節々が痛し、頭も痛い。
二日酔いかな……。
そういつものようにゆっくり体をおこし目を開けると、そこは……。
「!」
大きな窓があり、目の前の景色は他に障害物が見えない。
ここが高層マンションである事は確定だった。
慌てて周りを見渡すと、今さっきまで自分が寝ていたベッドは、何サイズかわからないほど大きく、頭元には『こんなに必要か?』と思われるほどの枕が綺麗に置いてあった。
ベッドのそばには、観葉植物とサイドテーブルには程よく冷えたペットボトルの水が……。
そして、ふと自分の姿を見ると……。
「!?」
パンツ一枚しか履いていない自分の姿。
ちょっとまて……。
落ち着いて考えよう……。
ここは高層マンション。
しかも高級な……。
絶対に知っている場所でない。
それに…服を着ていない……。
あった!
そうか! ここは夢だ。
もう一度寝たら、大丈夫。
ドサっとさっきまで寝ていたベッドに横になって目をつむる。
頭が興奮しているのか、なかなか寝付けない。
夢の中だって、なかなか寝付けないんだなー。
ゴロンと寝返りを打ったとき、腕がサイドテーブルにあたった。
「っ痛…………っ!」
今、あたったところ、確実に痛かった。
まさかとは思うけど……。
今度は確認のため、テーブルに頭をぶつけてみた。
「ったー!」
ぶつけた痛みと、二日酔いの頭痛とで、頭がガンガンする。
夢の中でも少しぐらい感覚はあっても、何とか自分に言い訳できるが、さっきの痛みは、もう言い訳ができない。
今の状況に対しての驚きというより、何をしてしまったのか……という焦りと恐ろしさがこみ上げてえきた。
そして、確かにどこからともなく食事のいい香りがしている。
とりあえず何か着ないと……。
このままではどこにも動き回れないと、自分の服を探していると…
「!」
さっきまで寝ていたベッドの隅に、綺麗にたたんである服を見つけ、スーツはちゃんとハンガーにかけられていた。
自分でもこんなに綺麗にたためない……。
非現実過ぎて、だんだんとこの状況を受け入れつつあった。
真司はのろのろと服を着ると、いい香りがするほうに向かう。
それにしても、広い家だな……。
仕事でもこんなマンション扱った事ないな……。
「ここかな……?」
あたりをキョロキョロしていると、香りのする部屋の前にたどり着いた。
中からは料理をしている音もする。
そーっとドアを開けると……。
「あ、おはようございます」
そこには、さいばしと小鍋を持った、高身長の爽やかイケメンの姿が。
ん??
真司は現状がまた理解できず、一度ドアを閉める。
誰かいる……。
そして……あのイケメン、誰?
そして心を落ち着かせてから、恐る恐るもう一度ドアを開けると、
「ちょうど、朝ごはんができたところで、そろそろ声をかけに行こうと思っていたんです」
日の光を背にした爽やかイケメンが微笑む。
眩しい……。
いろんな意味で……。
「あの…お聞きしたいことが」
部屋の中に入らず真司は上半身だけドアから部屋の中を覗く。
「そうですね。では、朝食をとりながらいかがですか?こちらどうぞ」
二人分の配膳を終わらせたイケメンが、真司が座るように促した。
一瞬どうするか考えた真司だったが、いい香りと、とりあえず今の状況を聞こうと席についた。
イケメンがニコリと笑うと、
「いただきます」
と、手を合わせ食べはじめた。
イケメンは食べ方も綺麗だな……。
仕草に見惚れる。
「洋食の方がよかったですか?」
「!」
声をかけられるまで、真司は朝食が和食だったことに気付いてなかった。
炊き立ての白米、梅干し、ほうれん草のお浸し、ひじき、だし巻き卵、大根おろし、焼鮭に、しじみ汁……。
なんて美味しそう。
「洋食もできますが……」
真司が何も手につけてないのをみて、イケメン
が心配そうに見つめる。
「いえ!いただきます」
ほうれん草のお浸しを口に運ぶと、
「おいしい!」
美味しさのあまり、自然と声が出る。
「なんでこんなに美味しいんですか?」
驚きのあまり、真司は聞いてしまった。
「普通ですよ。でも、そう言っていただけて、嬉しいです」
少し恥ずかしそうに微笑むイケメンの姿に、真司もつられて照れてしまった。
「あの……それで……どうして俺はここに、いるのでしょう……か?」
真司は二日酔いにもかかわらず、パクパクとご飯を食べ進めながら聞いた。
「やはり、覚えてらっしゃらないんですね」
イケメンはお箸を置く。
「昨日……バーのカウンターで飲まれたのは、覚えてらっしゃいますか?」
「ん-……あ!」
覚えてる!
確か付き合っていた真美に呼び出されて、それで……。
真美に、別れて欲しいと振られたんだった。
その後の事を思い出して、真司が頭をうなだれる。
「はい……覚えてます……」
「大変申し上げにくいのですが……その後、なにがあったか、覚えてらっしゃいますか?」
申し訳なさそうにイケメンが真司に問いかける。
「覚えてます……彼女、いや……もう、元カノですね……振られました……」
いざ真実を口にすると、悲しいやら、恥ずかしいやら、なにがダメだったのか……。
いろいろな感情がこみ上げてくる。
「その後の出来事は、どこまで覚えられていますか?」
「その後?」
その後……その後……。
必死に思い出そうとしても、思い出せない。
何という失態……。
「佐々木さんが私に声をかけられて、一緒に飲んでいたんです」
ー佐々木さんー
どうして俺の名前を!?
「どうして名前を知ってるか?ということですよね。佐々木さんが教えてくださったんですよ……彼女さんの話など……」
「どうして……」
素朴な疑問が真司の口をついて、自然と出てしまった。
「佐々木さんはかなりハイペースで飲まれていて…ちょうどカウンターの隣りというか…一番近いところに座っていた私に声をかけてこられたんです」
その状況が目に浮かぶ。
「すみません……」
酔っ払って知らない人に絡むなんて……。
「いえ。それはいいんです。でも、あまりに酔われていたので、私がお水を勧めると、勧めれば勧めるほどウイスキーを飲まれるので、もう勧めるのはやめると、色々と話し出してくれたんです」
うー。
過去に戻れるなら、そんな自分を殴ってやりたい。
「店も閉店になって、家までタクシーで送ろうかと思ったのですが、教えていただけず、やむ終えず私の家にきていただいたんです」
「すみません……」
穴があったら入りたい……。
「家の中まで入られたら……そこのテーブルの下に敷いていたラグの上に……吐かれ、その時にシャツが汚れられたので……シャツを洗濯してたんです」
反射的に真司は指された机の下を見ると、
ラグがない!
「す、すみません!クリーニング代、払います!」
「いえいえ。そんな事、気になさらないでください」
「そんなわけいきません!」
ガタンと真司が立ち上がった。
「私もそろそろあのラグ、クリーニングに出そうと思っていたところなので、大丈夫ですよ。だから、お気になさらないでください」
ニコッとイケメンが微笑む。
「でも……」
真司が話をとすると、イケメンが話を続け出した。
「スーツは大丈夫だったので、ハンガーにかけて、ベットまでお運びした……というのが、昨日の出来事です」
「すみません……」
自分の行動が情けなくて、泣きたくなる。
でも、ベットに綺麗に整えられていて、二人寝た形跡はなかったな……。
「あの……あなたはどこで寝られたんですか?」
恐る恐る聞いてみると、
「ソファーで寝ましたよ」
イケメンはさも当たり前のように答えた。
「え!?ソファーですか!?」
驚きのあまり真司の声が裏返る。
「え?だってお嫌でしょう?男が隣りで寝てるなんて」
「そういう問題じゃなくて…」
ここ、イケメン君のお家ですよ!
見ず知らずの泥酔男をあんなに大きなベットに寝かせ、自分はソファーなんて……。
「それより、今日お仕事大丈夫ですか?何度か起こしたのですが、全く起きられなくて……それに今日は仕事お休みだとおっしゃっていたので……」
心配そうなイケメン。
「!」
そうだ!仕事!
「今日は4月○日の×曜日ですよ」
その日は……。
「休みです……」
「それはよかったです」
ほっとしたようにイケメンが笑う。
「あ、朝食は食べられるところまでで、後は残してくださいね。ちょっと作りすぎてしまったので……」
そういうとイケメンはまた食事をし始めた。
「ご迷惑かけっぱなしで、本当になんと言えばいいのか……すみません」
座ったまま真司が深々と頭を下げる。
「俺に何ができるかわかりませんが…なにかお礼、できませんか?」
「お礼なんて、そんな……」
恐縮して、イケメンが手を横に振る。
「でもなにか……。ここまでしていただいて俺が何かしたいんです!」
「じゃあ、もし佐々木さんがよろしければ、たまに私の料理を食べていただけませんか?」
「?」
イケメンの提案をきいて、真司が不思議そうに首を傾げる。
「実は私、料理が趣味なんですが、食べてくれる人がいなくて……。もしよろしければ、佐々木さんのいい時に食べていただけませんか?」
イケメンが俯き加減に言ったので、どんな表情かわからないが、耳まで真っ赤になってるのをみて、可愛く思ってしまう真司がいた。
「もちろん! 喜んで! こちらからおねがいしたいぐらいです!」
無意識うちに真司はイケメンの手を握っていた。
「あ、ありがとう……ございいます…」
真司の返事にか、手を握られたことになのか、イケメンが驚き、そして嬉しそうに笑う。
「では、佐々木さんのいい日、メールで教えていただけませんか? これが私の名刺です。ここにアドレスと名前書いてあります」
イタズラっぽく笑うイケメン。
その微笑みには『私の名前、覚えていないでしょ』
と、いう事を含んでいるようだった。
お世話になった人の名前を忘れて、恐縮しっぱなしの真司が名刺を受け取る。
『立花 蓮』って名前なんだ……。
携帯番号、アドレス。
そして、会社の名前は……!
世界的に有名な会社の名前。
「立花さん、こちらで働かれてるんですか?」
「ええ……できない社員ですけど……」
本当にできない社員はそんなこと言わないし
できない人は、そもそもここでは働けない。
「ここにメールいただけたら、用意しておきますので、家にきていただませんか?」
「あ! はい! お願いします。えーっと俺の名刺は……」
そもそも、名刺が入っているカバンがない。
「カバンなら、ここに置かれたので、そのまま触らずに置いてますよ」
部屋に入ったすぐのところに、部屋の雰囲気に似ても似つかないカバンが、無造作に置かれていた。
真司はいそいそとカバンを取りに行き、立花に名刺を渡した。
立花との会社の違いに恥ずかしくなる。
「ありがとうございます。あ、今日は体調戻られるまでゆっくりしていってください」
立花が暖かいお茶を出してくれる。
自分のばかりで、気が回らなかったけど……、
「立花さん、今日お仕事なのではないですか?」
「今日はテレワークなのでお気になさらないでください。私はキッチンか書斎にいるので、何かあればおっしゃってくださいね」
そう言うと、立花はアイランドキッチンの中に入っていった。
「何から、何まで……すみません」
真司は恐縮しきるばかりだった。
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