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あれから一週間が経ち、すっかり日常が戻っていた。
「ママ、黒のジャージ洗濯しちゃった?」
裕太が顔を強張らせて、食器を洗っている私の元へとやって来た。
「え?洗ってるけど、なぁに?」
「あぁー…」
「今、回し始めちゃったけど、着たかったの?」
「ううん…いや、大丈夫」
「なぁに~?」と私はしつこく尋ねるが、裕太は表情を曇らせて「なんでもない…」と部屋へ行ってしまった。
何だったのかな…と、訝しく思いながら食器を洗って、掃除機もかけ終わったところに、洗濯終了のお知らせのメロディーが鳴る。
洗濯機を開けると、大惨事だった。
ティッシュ洗濯事件だ。
「裕太!」
あの態度の理由はこれか…と、私はイラっとして裕太のジャージのポケットを探る。
この惨事の元凶の物はなかったのだが、別の物が出てきた。ポケットサイズに折りたたまれた青みがかった紙だ。
私は破けないようにそれを広げると、それは算数のテストだった。
丸の数が極端に少なく、右上の南波 裕太という名前の横に27点という点数が赤字で書かれてあった。
「ゆーうーたー!」
私の怒号が家中に響いたことだろう。
私がそのテストを握りしめて裕太を追い詰めると、遺影の恭太と目が合った。
「さすが俺の子だな」
と、写真の中の恭太は、苦笑いしているように見えた。
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