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すぐにパッとテレビ画面が明るくなり、発表会の様子が映し出された。
可愛いグレーの園児服に、あずき色のベレー帽をかぶった園児たちがステージに並んで立っている。
広角だった画角が徐々にズームになって、裕太にフォーカスされた。
「ユタ、可愛いなぁ」
「俺の子だからな」
「ハイハイそうですね」
「ちょっと緊張してんな」
時折、恭太と私のコソコソした会話が聞こえてきて、当時のことが鮮明に思い起こされる。
嬉しそうに、裕太に優しい視線を送る恭太の横顔。それから、私に向けられる満面の笑み。
恒太は画面を食い入るように見て「アハハ!にーちゃん、ちっちゃいね。にーちゃんはオレンジ色だから"レ"の音だ!」とテレビの前に正座して体を左右にゆらゆら動かしている。
裕太はその隣で「…うん」と、言葉を詰まらせていた。そして、静かにゴシゴシと服の袖で目を拭く仕草がいじらしかった。
父親の記憶がない恒太だけが、明るくあどけない様子で吸い込まれていくように、テレビに顔を近づけていた。
裕太が私の方を振り返り、真っ赤な目で私を見つめて「パパに会いたい…」と小さく呟いた。
我慢していた感情が一気に溢れ出てしまった。
涙がボロボロと零れ落ちて「そうだね…会いたいね…」と裕太を抱きしめる。
「ママ?にーちゃん?」
恒太は私たちの様子を不思議そうに見つめて、それから瞳に涙を浮かべた。
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