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「ただいまぁ〜」
裕太が私たちより一時間ほど遅れて帰宅した。恒太は疲れて、リビングの隣の和室でお昼寝中だ。
私はキッチンで裕太の好きなキャラメルバナナパンケーキを焼いていた。
裕太は「バナナケーキ?やった〜!」と喜んだ後、私の顔をしたり顔で覗き込んで「どうだった?」と尋ねる。
相変わらず上着は脱ぎっぱなしでソファーにひっかけるし、カバンも床にボンと乱雑に放ったのが気にはなったが、ひとまず注意の言葉は飲み込んだ。
「主役やるなんて知らなかったから驚いたよー!完璧だったね!感動して泣いちゃったよ〜…練習してたの?」
私が一気にそう話すと、裕太は得意げな顔で「カイトの練習付き合ってたからね、覚えてた。カイトがまさか熱で休むなんて思ってなかったし、代役の子が"やりたくない"って日和っちゃってさ…じゃあ僕やるよって言っちゃって、自分でも驚きだよ」と前のめりに話した。そして、「カイト頑張ってたのになぁ…」と、眉を下げて残念そうな顔をする。
そして裕太は「僕パンケーキ二枚ね!手洗ってくる…」と言って洗面場へ向かった。
裕太の度胸と親友を思いやる優しさに心がじんわりと温かくなった。
"肝が据わってるところ、恭太…あなたに似たんだわ…"
私は霞んだ目で恭太を見ると、恭太はいつもと変わらない笑顔で見つめ返してくる。そして、当たり前だが、いつもと変わらず無言のままだ。
だが今日の恭太の遺影は、どことなくしたり顔に見えた。
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