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 保育園児は予測不能な動きをする。それは(はた)から見ていると可愛くて微笑ましいのだが、それをまとめる先生の苦労は尽きないことだろう。  今日はそんな園児たちがきちんと整列して、先生の指揮に合わせてカラフルなハンドベルを順番に振っている。  たくさん練習したであろう"きらきら星"を一生懸命演奏する園児たち。恒太もニコニコ笑顔で自分の担当の水色のベルを高々と掲げて鳴らしていた。  自分の出番でしっかり鳴らせた恒太は鼻の穴を膨らませて、満足気な顔をしている。その顔を見て、裕太が「ふふふ」っと笑う。  私も、安心して「ふふ」っと裕太の笑いに応えた時、恒太の後ろの列のお調子者のケンジ君が、自分の出番でピンクのベルを盛大に振った。  発表会という大舞台で、待ちに待った自分の見せ場だ。ケンジ君の興奮は絶頂に達していたのだろう。ケンジ君が大きく振ったハンドベルが、恒太の頭にガツーンとぶつかった。    『あぁっ!』  私や裕太だけではない。その出来事を目撃していた観覧席の保護者達も驚いて、声が出た。  恒太は痛みで顔を歪め、頭を抱えた。ケンジ君の顔色がみるみると青ざめる。だが、そんなハプニングを知らない他の園児たちは演奏を続けた。  いつもならすでに泣き出してしまっているところだが、恒太は口をへの字にして顔をあげた。それは本当に素早く、先生の静止が入る寸前だった。そして、恒太は再びやってきた自分の番でしっかりとベルを鳴らした。  真っ赤な顔で、痛みを堪えて必死にベルを鳴らす恒太の姿に、私の方が耐えかねて泣いてしまっていた。  「やるじゃん、コタ…強くなったな…」  裕太が隣で呟いた。  私はその裕太の言葉にコクコクと、首を大きく縦に振った。
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