35人が本棚に入れています
本棚に追加
「僕も幼稚園生の時、ハンドベルやったっけな」
保育園からの帰り道、裕太が何気なく呟いた。
「え!にーちゃん、何の音?何の曲やったの?」と、恒太が興味津々といった様子で裕太に尋ねた。
「何の音かは忘れたけど、曲は"星に願いを"だったかな」と答える。そして「そういえば…」と続けた。
「録画したのあるんじゃない?見たことある気がする…ねぇママ?」
「ん…?うん」
私は裕太のその言葉にドキリとした。
もちろん、データはディスクに移して保管してある。
発表会の他にも、運動会、卒園式、入学式…節目節目で記録として欠かさずに撮っていた。
「にーちゃんのハンドベル、見たい!見るっ見るぅ~!」
恒太は興奮気味にピョンピョン飛び跳ねる。
そんな姿を微笑ましく眺めながらも、私はひどく動揺していた。
裕太の幼稚園時代…まだ恭太に病魔の影すら感じなかった頃。恭太の愛情を直に感じて、安心に包まれていた頃。恒太はまだ生まれていなかったけれど、「そろそろ二人目欲しいよね」って、可愛い裕太を見つめてそう言っていた頃。
私は恭太を失ってから、動画を見るのは避けてきた。
会いたくて、恋しくて、どうしようもなくなって、感情が壊れてしまうんじゃないかと心配だから。
どうしよう…
最初のコメントを投稿しよう!