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 「僕も幼稚園生の時、ハンドベルやったっけな」  保育園からの帰り道、裕太が何気なく呟いた。    「え!にーちゃん、何の音?何の曲やったの?」と、恒太が興味津々といった様子で裕太に尋ねた。   「何の音かは忘れたけど、曲は"星に願いを"だったかな」と答える。そして「そういえば…」と続けた。  「録画したのあるんじゃない?見たことある気がする…ねぇママ?」  「ん…?うん」  私は裕太のその言葉にドキリとした。  もちろん、データはディスクに移して保管してある。  発表会の他にも、運動会、卒園式、入学式…節目節目で記録として欠かさずに撮っていた。  「にーちゃんのハンドベル、見たい!見るっ見るぅ~!」  恒太は興奮気味にピョンピョン飛び跳ねる。  そんな姿を微笑ましく眺めながらも、私はひどく動揺していた。  裕太の幼稚園時代…まだ恭太に病魔の影すら感じなかった頃。恭太の愛情を直に感じて、安心に包まれていた頃。恒太はまだ生まれていなかったけれど、「そろそろ二人目欲しいよね」って、可愛い裕太を見つめてそう言っていた頃。  私は恭太を失ってから、動画を見るのは避けてきた。  会いたくて、恋しくて、どうしようもなくなって、感情が壊れてしまうんじゃないかと心配だから。    どうしよう…  
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