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後悔なんかしていないよ。
親の反対を押し切って、あなたと結婚するために家を出たあの日。私はあなたとの理想の未来を思い描いて、幸せのあまり震えていた。
あなたはそんな私を落ち着かせるために、男らしい鍛えられた両の腕で優しく抱きしめて、ゆったりと背中を叩いてくれた。
あなたさえいれば、あなたが隣にいれば、私はいつでも幸せだった。
くだらないことを笑い合って、しょうもないことで喧嘩して、一緒に子供の成長を喜び、優しく暖かい目で見守る。
そして「皺が増えた」だの「膝が痛い」だのと、互いに老化した体を嘆いては「そりゃあ、こんだけ生きたら体もくたびれるさ」なんて言い合って。
そんな平凡な夫婦の人生の台本が、確かに私たちの手元にあったのだ。
それなのにあなたは逝ってしまった。
私と子供たちを置いて。
闘病生活は約半年。あっという間のことだった。
健康そのもので働き盛りだったあなたに、病魔は突然襲い掛かった。いや、ソロリソロリと忍び足でやって来ていたのだろう。ただ、そのことに気づかずにいただけだ。
覚悟なんてできなかった。
"待った"は効かなかった。
何もしてあげられなかった。
気丈に振る舞うあなたの前で、私ができる最上のことは何だったのだろうと、今でも時折考えては、できなかったことばかりを悔やんでいる。
辛いのも、悔しいのも、私よりもあなたの方なのに…
慰められてばかりだった。
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