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……次行ってみよう。
私は2冊目のノートを開くことにした。
「No.2」とだけ書いてある。
四つ葉のクローバーがちりばめられた可愛い表紙のノート。
そして内容が一冊目とちがい、雲行きが怪しくなる。
子供が生まれた頃だ。忙しいせいか、字がずいぶん 乱暴だ。
夫が飲み会に行ったからどうだとか。
忘年会、立て続けに行ったら金がかかる!
もう少し減らせ!とか……
「あいつ(息子・当時2才)が三輪車乗ってたけど、坂道で頭から落ちて血まみれになったからどうしよう…」という夫からの連絡に
「まだ公園行ってから30分しか経ってないだろうが!!」
と乱れた文字が書かれ、病院に行った経過と長々と夫への不平不満が書いてあった。
……おかしいな
楽しい思い出とか書いてない……
私の予想では子供が初めて喋ったとか
家族で仲睦まじく 遊んだとか
夫に感謝した、とかそういう
エピソードの記述を期待したが全く見当たらない。
いや 諦めるな 、結婚生活はまだ長い。
きっと3冊目だ。
「30代」と書かれた水色の普通のノート。
この辺りから明らかに ノートに対するこだわりがなくなり、質が落ちてきた。
字も乱雑だが、ところどこに赤線が引っ張ってある。
どうも 夫への文句の箇所だけ、赤線が引っ張ってあるようだ。少し 読んでみたが、
微笑ましいどころか だんだん腹が立ってきた。
ひときわ 赤線だらけの ページを見つけた。
その エピソードとは…。
4月10日
今日も朝から忙しい。子ども達がやっと小学校に行った。春休み…… 長かった。
ホント給食ありがたい!
あー ご飯食べよう!しまった、ゴミだしあるな…
春休み中は子どもの仕事だったが、今日から私か。
メンドくさ…
妻がこんなに忙しいのに、リビングの机で夫が朝ご飯を食べながら、テレビから流れるニュース を熱心に見て、話しかけてくる。
「おいおいこれ見たか?毒グモだ 。
セアカゴケグモだってさ。外国から船で来たらしいぞ。 こえ〜な」
虫の嫌いな夫から見れば 一大事のニュースだが、私にとってはどうでもいい。
あなたはずいぶん 暇そうじゃない。
さっさと仕事に行ってくれ。
ほぼ無視してリビングの椅子に座り、
コーヒーを一口飲む。その途端
「あ!あ!ぎゃあぁあああ!」
夫は悲鳴を上げながら、ものすごい勢いで椅子から立ち上がり、 ドア付近まで逃げ出した。
「うるさいな!
今から朝ご飯食べて休憩するんですけど!?」
私の声は無視で旦那が叫ぶ。
「あ!足元に外国の蜘蛛(クモ)が出た!!
緑っぽい!見たことない!
新種の毒グモだあぁあぁあ!」
クモ?そんなもんいたか?
驚きあせる夫を見て 逆に冷静になった私は、
机の下を確認する。
「そこ!そこにいる!」
夫が必死で指さす方向をよくよく見ると、床にいたのは、カラカラに乾いた プチトマトのヘタだった。
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