いい夫婦の日

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「あいつ起こしたのか?大丈夫なのか」 勘弁してくれ。今日は大事な日なんだ。 あなたはもう少し寝ていてくれ。 今、弁当作ってんだよ!ほっといてくれ! 私の願いも虚しく、夫はうろうろと 部屋中を歩き回る。 しばらくすると 息子も起きてくる。 早朝なのに家の中は騒がしくなる。 「受験票 持ってるのか?」 起きたばかりでぼんやりしている息子に夫は矢継ぎ早に確認するが、返事などある訳がない。 自転車で行く という息子に 「雨が降ってるぞ。転んで滑ったらどうするんだ。 制服破れても、まず高校行けよ」 朝から不吉なこと言うなよ! 私の怒りのボルテージは上がる一方だが、 怒らないと誓ったのだ。 平常心を保とうとするが、もうペースを乱されて、弁当がろくに詰めれない。 完成しない。困った、どうしよう。 それでも どうにか 支度はできた。 いよいよ 息子 本人を送り出す。 夫が駅まで車で送るというが、 これぐらいの雨なら一人で行ける、 という息子を玄関で夫と共に送り出すこととなった。 しかし 問題はここからだ 。 感極まった夫がいった一言は、今でも忘れられず 私の耳に残っている。 「人生 最初の猿芝居をしてこいやぁ!」 夫は大きな声で叫んだ。 これでも励ましているつもりなんだろうが 横で息を飲む 私をよそに 「ふざけてたら落ちるんじゃね?」 と冷静に返した息子がいた。 返事を返せるなんて 大人だな、君は。 私はムリだ。 そして、頭の中に大きな疑問が1つ残る。 ……この人の、どこが良くて 結婚したんだったっけ……?
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