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彼女は声を荒げ、テーブルを強く叩いた。置いてあったお冷が揺れ、水が少量零れる。ふーっふーっと鼻息を荒くし、怒りで目を吊り上げている碧人の母親に声を掛けたのは、ずっと黙っていた長坂さんだった。
「お義母さん、落ち着いてください。取り乱しては、相手の思うつぼです」
「……そうね、ごめんなさい、ちょっと我を失ったわ」
鈴のような綺麗な声で、長坂さんは優しく言う。
「少し、中谷さんと二人でお話させていただいてもよろしいでしょうか?」
「それは、構いませんが……じゃあ、私は少しの間外で待っていますね。気を付けてくださいね萌絵さん、相手はとても下品で失礼なことを言う人ですから」
私をじろりと睨み、碧人の母親は席を立った。興奮してしまった自分の頭を冷やしたいのもあったかもしれない。
二人きりになったところで、やっとコーヒーが運ばれてきた。この異様な雰囲気のテーブルに持ってくるのを店主が躊躇った可能性が高い。私は貰ったホットコーヒーをそっと啜った。
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