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それと同時に、目の前の女性を見る目が変わる。てっきり見た目から、やわそうなお嬢様と思っていたがとんでもない。私にマウントを取り、見下している。これはなかなか手ごわい女と見た。鼻をくすぐる彼女の甘い香水の匂いが、ひどく不愉快だ。
「そうなんですね……」
「中谷さんはお付き合いされて一か月でしたっけ? じゃあ、指輪はもうもらいました?」
「指輪?」
彼女は意味深な笑みで、ようやくホットコーヒーを左手で取った。その薬指に、銀色の輝きを見つけて絶句する。
涼しい顔でコーヒーを飲んだのち、穏やかな声で言う。
「一か月もしないうちに貰いました。私の宝物です。愛されてたんだな、って……夜も凄く優しかったし」
私はもう、限界だった。
目の前のコーヒーをほとんど残したまま立ち上がる。きょとんとしてこちらを見上げる長坂さんに、怯むことなく言う。
「あなたがいくら輝かしい日を語ろうと、私は興味がありません。なぜなら全て過去の話だからです。私は碧人と今を生きています。碧人と別れる気もないしあなた方に屈しません。失礼します」
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