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それだけ言い残すと、私は長坂さんに背を向けて立ち去った。一度だけ背後を振り返ったけれど、彼女は一つも表情を変えずにコーヒーを飲み続けていて、その余裕ある態度が癪に障った。
店を出ると、碧人の母親が立っていてぶつかりそうになる。彼女はなぜか勝ち誇った顔で私を見た。私はとりあえず頭だけ下げると、そのまま何も言わずに駅の方へ向かって歩き出す。イライラが止まらず、叫び出したい気分だった。
彼氏の過去の恋愛話を気にするようなタイプではない。いろんな過去があってこそ今、その人が存在しているわけで、過去に怒ったり嫉妬したりするのは間違いだとずっと思ってきた。
でも今回は、どうしても胸の中がぐちゃぐちゃになった。
大丈夫、大丈夫だ。碧人が今まで向けてくれた愛情を疑ったりはしない。彼はいつでも精一杯私を大切にしてくれているし、土井を捕まえることだってしてくれた。
……ただ、初恋だと、前に付き合った人とは本気じゃなかったといった言葉は、矛盾していると思った。
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