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月乃の前であんなことをしてくるなんて、信じられなかった。まるで月乃を空気のように扱い、笑顔で俺にだけ話しかけてくる姿は恐ろしいとすら感じた。
しかも相手が……長坂萌絵。
親と関係のある人だなんて一切知らなかった。とっくに終わった相手だと思っていたのに、今更こんな形で再会するだなんて。苛立ちで頭を掻いた。
一年以上前、会社近くのカフェでよく会っていた人で、向こうから声を掛けてきたのが始まりだった。誰が見ても可愛らしい顔立ちでスタイルもよく、ビジュアルがよかったので返事をした、ただそれだけだ。
告白されて付き合ってほしいと言われたので、うんと返した。好きでもない相手と付き合うのは不誠実だっただろうか? でもあの頃、人を好きになる感覚なんてよく分からなくて、自分を好いてくれる人と付き合えば何かが変わるのかと思い込んでいた。
ぼんやりと運転しながら、過去のことを思い出す。
恋と呼ぶには程遠い関係だった。
顔は可愛いと思った。でも愛しいとは思わなかった。しかし、向こうはこちらを好いてくれているんだと思い、前向きに考えようと思っていたが……。
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