月乃の怒り

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「そんなのめちゃくちゃじゃん!」  苛立ちを隠せず頭を強く掻いた。肩までの黒髪が揺れる。頭皮に痛みを覚えつつも、私は続けた。 「上司にもずっと相談してたじゃん! なのに何の対処もしなかった挙句、由真がクビになるなんて」  そう声を荒げた時、背後からわざとらしい言い方で声が聞こえた。 「あれ~近藤さん、いなくなっちゃうんすかー。寂しいけど、まあしょうがないねー。その年だし、嫁ぐにしても今から必死になって相手探さなきゃだね?」  振り返ってみると、にやにやした顔をした男が立っている。土井光孝だった。頬には大げさなガーゼが貼られている。その顔を見た途端殴りかかりたくなるのを、由真が小声で抑える。 「月乃! いいから、もうほっとこうよ」 「でも……!」 「こえー。暴力振るわれないようにいこーっと」  土井は笑いながらそう去っていく。その後姿を見て、ただひたすら怒りに燃えた。  数か月前、土井光孝が中途採用で入ってきた。私たちより確か三つ年下の二十六歳。
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