3292人が本棚に入れています
本棚に追加
「そんなのめちゃくちゃじゃん!」
苛立ちを隠せず頭を強く掻いた。肩までの黒髪が揺れる。頭皮に痛みを覚えつつも、私は続けた。
「上司にもずっと相談してたじゃん! なのに何の対処もしなかった挙句、由真がクビになるなんて」
そう声を荒げた時、背後からわざとらしい言い方で声が聞こえた。
「あれ~近藤さん、いなくなっちゃうんすかー。寂しいけど、まあしょうがないねー。その年だし、嫁ぐにしても今から必死になって相手探さなきゃだね?」
振り返ってみると、にやにやした顔をした男が立っている。土井光孝だった。頬には大げさなガーゼが貼られている。その顔を見た途端殴りかかりたくなるのを、由真が小声で抑える。
「月乃! いいから、もうほっとこうよ」
「でも……!」
「こえー。暴力振るわれないようにいこーっと」
土井は笑いながらそう去っていく。その後姿を見て、ただひたすら怒りに燃えた。
数か月前、土井光孝が中途採用で入ってきた。私たちより確か三つ年下の二十六歳。
最初のコメントを投稿しよう!