テイルオブフローラント~異世界転生モノなのに、転生先で波乱の連続っておかしくないですか!?~

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神託を受け旅立ったレオンハルト(中身は現代日本の女子大生)。 世界救済の旅はまだまだ始まったばかり。現在は、封印の祠を守る竜を倒すために必要な水属性の魔法を習得すべく、現在は魔女・スィスィのもとで猛特訓をしている。 そんな修行中のある日のこと。 「はあっ!」 シャーロットが静かに念じると、目の前の甕の中の水が大きく揺れて、何度も波打った。水は溢れてこぼれていく。その現象が何を意味するのかというと、水魔法の修行は順調ということである。 「シャーロット、水が!」 剣の素振りをしていたレオンハルトもとい私が、思わず鍛錬の手を止めて見入ってしまうのも無理はない。なにせ、ほんの数日前まで、このプラチナブロンドの巻き髪の女の子は、水属性の魔法なんか興味さえなかったのだから。 水属性は4大属性のうちのひとつであり、自然と密接に関わっている属性でもある。シャーロットは火属性の魔法が好きらしく、それと相性のいい風属性の魔法は多少扱えるが、火と対極である水魔法はからっきしだった。 そんな彼女が、修業を始めてたった3日目で、自らの魔力で水を随意に動かすことが出来るようになった。魔女・スィスィが言うには「多少魔法の素養があったとしても、この甕の水を思うがままに操るには1ヶ月かかる」のだそうだ。それをたった3日でだ。流石、才覚だけなら宮廷魔術師・ルピナスをも凌ぐと言われるだけある。天才と呼ぶべき修得速度だ。 「フン、当然よ」 シャーロット・ドミナ嬢。王家に名を連ねる彼女は、いかにもそれっぽく高慢ちきな、しかし弾んだ声で嬉しそうにそう言った。 「ジャガランダのサラマンダーとあだ名された私に水属性を覚えさせようなんて、随分コケにしてくれたものだと最初のうちは思いましたけれど。まあ、私に出来ないことなんてありませんわ。これも火属性の威力を高めるために必要な過程の一つと思えば、造作もありませんわね」 そう、対極の属性を理解することは、魔法を行使するにおいて非常に重要なことらしい。端的に言えば、火属性をよりうまく扱うために、水属性を学ぶことは役に立つという。 我の強いシャーロットが水属性を学ぼうという気になってくれたのも、それが理由の一つだ。 「うんうん、すごいよ。きっとこれからもっとたくさんのことが出来るようになるね。楽しみだなあ」 「何故貴方が楽しみなのです、レオ」 最近、私のことをそう呼んでくれるようになった。旅立ってすぐのころは、下僕とか舎弟とか言われてたのに。 「そりゃ楽しみだよ。魔法って、わ、俺には使えないからさあ、自分の知らないものを目にすることが出来るのは、純粋に嬉しいし、ワクワクするな」 前衛である自分が剣術素人で、旅においてほぼ役に立たない今、頼りになるのはシャーロットの魔法だけなのだ。いちおう食料兼戦闘要員として魔物のルーチェがいるけれど、コイツがこちらの指示通りに動いてくれた試しはない。やはり頼るべきはシャーロットの魔法だ。 「目的はドラゴンを倒すためなんだけど、今は普通にシャーロットの水魔法を見てみたいって気持ちが強いかな!」 「……」 レオンハルトは15歳の男の子だ。しかし、魂は私だ、現代日本の女学生だ。心は女であるからして、同性の年頃の女の子がどんな会話で喜ぶか、やりがいを感じるのかをかなり理解している。自分が言われて嬉しい、不快にならないことを言えばいいのだ。必中とまでは行かなくても、少なくともハズレはない。 「そ、そう……」 だからなのか、あるいはレオンハルト君の容姿が際立って整っているのか。最近、ただ単純におだてて、褒めそやしているだけなのに、シャーロットの反応が、その。 「貴方が楽しみなら、私も楽しみだわ。早くド派手な水魔法を使えるようになりたいですわね」 目は逸らし、しかしチラチラとこちらを見てくる。頬はほんのり薔薇色で、照れくさいというだけじゃない雰囲気を感じてしまう、どうしても。 要するに、シャーロットはレオンハルトに気があるのではないか、という話だ。 今だって、「うん、楽しみだな」と返したレオンハルトをときめいた顔で見てくる。これは本物だ。 その事の何が問題かと言えば、レオンハルトは“ガワ”こそ15歳の美少年だが、中身は20歳そこそこの女だということだろう。転生先でゆる百合が始まるなんて一体だれが想像するんだ。 私をこの世界に飛ばしたあの無能神様が、こうなることを見越した上で私の転生先を男にしたのだとしたら、人の心を弄ぶのも大概にしろという話である。 「にゃあんで、“ばけものひめ”はかおがまっかにゃあ?」 「あなたはまた人を変な名前で呼んで! それに、真っ赤なんかじゃありませんわ!!」 昼寝をしていたと思ったルーチェが、ふよふよ飛んできておもむろにそう指摘してきた。図星を突かれたシャーロットは、とっさにルーチェの尻尾を掴んでぶんぶん振り回す。令嬢とは思えないガサツさと暴力性だ。 「レオ! いちおうは貴方が飼い主なのですから、躾はしっかりなさい!」 「……わ、俺だって、そいつの飼い主になりたくてなったわけじゃないのに……」 「黙らっしゃい!! まったく忌々しいですわ!!」 「にゃ~、れお、たすけろ、たたいてのばしてソテーにされる!」 元々いざというときは非常食として焼いて食おう。と、話していた魔物だから、ソテーになる分にはさほど問題ない。けれど、ここ数日はスィスィの屋敷で世話になっているから寝食には困らない。非常食を使うのは、また次の機会にすべきだろう。 「シャーロット、れ、練習を再開しようよ、俺も剣の練習の続きをするからさ!」 転生先ってのは、もっと穏やかに時が流れるものじゃないのか。何故、私の場合はこんなに波乱万象なんだろう。 誰にも答えを出せぬ問いを抱えながらも、レオンハルトは一人と一匹の喧嘩の仲裁に入ったのであった。 to be continued…?
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