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そこに描かれた女性に、僕は一目惚れした。
彼女の姿は鮮やかな色彩を纏いながらも、キャンパスの中で孤独な静けさに浸っている。
少女ではないが大人とも言い切れない顔立ち。肩に触れる少しウエーブのかかった美しい黒髪。
遠くを見つめる眼差しはどこか寂しげであり、儚い美しさがこもっていた。
ーーーあなたに会いたい
「ミコ」とタイトルが振られた絵の前に茫然と立っていると、心の内でそんな言葉が浮かんだ。
「気に入っていただけましたか?」
振り返ると、個展の主催者である画家がにこやかな笑顔で出立っていた。
ベレー帽から白髪交じりの髪をのぞかせている。
「はい。とても引き込まれました。正直なところ美術鑑賞は趣味な程度でして、評論するほどの知識は持ち合わせてないのですが、ここまで魅力を感じたのは初めてです。」
「ははは。嬉しいですね。人物画などがお好きなのですか?」
「いえ、ホントにどれが好きとかは無くって、絵のある空間が好きってくらいでしょうか。でもこの絵は、彼女には、何と言いますか・・・一目見て、会いたいと思いました。」
「ほう。会いたいと。褒めてくれる方は何人かいましたが、会いたいと言ってくれたのは初めてですね。」
「月並みな言い方だと一目惚れなのかもしれません。でもただ美しくて惹かれたとかではなく、運命は言いすぎでしょうけど・・・いや、運命を感じた。だから会いたいという気持ちになったんだと思います。ミコさんご本人がモデルなのでしょうか。不躾なのお願いなのを承知のうえで伺いますが、彼女に会うことはできるものでしょうか。」
「会いたい、か」
画家は腕を組み、逡巡するように天井を眺めた。
個展の人の入りはまばらで、僕以外の客は静かに絵を鑑賞している。
少しばかり緊張の伴う沈黙のあと、彼は僕に向き合って
「ふむ。これも縁かもしれませんね。彼女についてお話ししましょうか。」
と真面目な面持ちをして言った。
僕はやや身構えつつも、ひとつ頷いて「お願いします」と答えた。
そして僕は、彼女の半生を衝撃とともに知ってーーーーひとつの約束をすることになった。
「一年後、お気持ちが変わらなければ会わせてあげましょう。」
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