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柄にもなく花を買って、僕はその場所に向かった。
自然豊かなリゾート地にあり、中心からは少し離れた場所。
途中までは車を使ったが、いきなり乗り付けるのは心が引けて、車は離れたところに止めた。
教えられた住所まで歩くと別荘らしき一軒家が見えてきた。
爽やかな風が吹き、木洩れ日の差したテラスは神秘的に輝いてるように見える。
そこに彼女はいた。
僕がやってきたことに気づくと「あっ」と声をあげて座っていたイスから立ち上がった。
「はじめまして。ミコです。どうぞこちらにお掛けください。お話したいことがたくさんありますから。」
僕のたどたどしい自己紹介にも笑顔のまま答えてくれた。
いざ彼女を前にすると冷静さは吹き飛んで緊張しきり。
聞いた情報では僕の方が年上なはずだったが、彼女の方がよほど大人だった。
しどろもどろになりながらも、なんとか話を切り出す。
「それで、あの、お父様の描いたミコさんの絵を見て、会いたいと言ったらこのようなことになりまして・・」
「ええ。話を聞いたときは私もびっくりしました。私も嬉しいやらお恥ずかしいやらで。こんなところに引きこもってる私なんかでいいのかなって。それに、事情も聞いたうえでのことだったんでしょう?」
「はい。それでも、お会いしたいと。いやすいません。本人を前に言うのも照れるのですが、本当にそう思いまして。」
「ふふふ。ありがとうございます。こうして会ってみると、あなたも想像通りの方で安心しました。」
そう言って彼女はテーブルに目線を落とした。
一枚のスケッチが置いてあり、ひとりの男性が描かれている。
半ば気づいていたがあらためて確信した。
「それ・・僕ですか?まいったな。いつの間に描かれてたんだろう。」
「父はこうゆうの得意なんですよ。1回会っただけの人でも描けちゃうんです。あの人、それなりに売れてるんですよ。別荘を持つことできるくらいにね。おかげで私は空気の綺麗な場所で過ごせています。あなたにもお会いすることできましたし、父には感謝ですね。」
「そうですね。僕もお父様には感謝しています。こうして娘さんに会わせてくれたわけですし、それも二人きりで会うような計らいまで。」
「父もあなたにすごく感謝してましたよ。ものは試しくらいのつもりだったみたいなんですが、こんなにキッチリと約束を守ってくれて、思惑通りに。いえ、思惑以上の良い結果になりましたので。」
「良い結果に。ということは・・」
「はい。こうしてお会いできてるのが何よりの結果ですね。」
木々の間からさす光が彼女の頬を照らす。
絵の中にあった憂いた眼差しは、今の彼女には無かった。
「余命半年と言われていましたが、1年後でもあなたに会えました。」
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