コンポタ缶と炬燵

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コンポタ缶と炬燵

「あー、温かい。コーンポタージュ缶も炬燵も最高だな」 「うん。これってコーン入ってる?」 「それが入ってるんだな。もうちょっと飲んでるのか。底を回すように混ぜるとコーンが浮かんでくるぞ」 「あ、本当だ。シャキシャキしてて甘みもあって美味しい」 「アメユキ、初めてだっけ?」 「うん、そうだよ。本当にスープだ」 「そうさ、本物だ」 「楽しい。ありがと」  まともな料理はできないヒウタは、トーストをオーブンに入れてフライパンで目玉焼きとウインナーを焼く。 「ところで何をお願いしたんだ? って」 「神様にいっぱい感謝することがあったから長くなったの。お願いは、中学に入っても良い縁と出会えますようにって」  感謝か。  アメユキらしい。 「来年から中学生か。生まれたばかりのアメユキは俺を『ヒウタ』って言っても首を左右に振って『にいに』って教えると犬だったら尻尾を振ってそうなくらいの勢いで『にいに』を連呼してたな。今年小学校卒業して中学生か」 「そう。だから感謝もいっぱい」  アメユキはコーンポタージュ缶を飲み終えると緩んだ頬に手を添えていた。 「そんなに良かった?」 「うん」 「そういや、意気込んで見た夢ってどんなの?」 「それはね、みんなで餅を焼いて。それがね、ふわって風船みたいに膨らんでて。醤油浸けて海苔巻いて家族で食べたの。すごい幸せだったから現実でもしたい!」  アメユキは微笑む。  この等身大の夢を幸せという謙虚さが悪夢を見るヒウタとの違いだろうか? 「そうだな」 「にいにの悪夢は?」 「怖がるなよ」  ヒウタはアメユキの後ろ髪を優しく撫でる。  アメユキはヒウタの胸の中に飛び込んだ。  ヒウタが背もたれのような形になっている。 「顔に赤色のペンキを塗ったやつが追いかけてきて、それはもう疲れても追ってきて、……(略)、気づいたら俺はまた走っていて、……(略)、なんと赤ペンキ人間になってた」  早口で言うヒウタ。  アメユキの目は死んでいた。 「へえ、それは大変だったね」  アメユキは感情が抜けた言葉を返す。 「めちゃ汗かいて目覚めて怖かったから」 「そもそも攻撃方法分からない。ペンキを浴びると動きが鈍くなってしまうとか。実際ダメージ受ける系の攻撃は? 世界観も分からない、赤ペンキ人間って」  アメユキは鼻に握り拳を当てて微笑む。 「怖かったから」 「変なの」 「確かに」  アメユキの言葉を聞いて納得してしまったヒウタであった。  朝食を食べ終える。  皿を洗ってヒウタは炬燵へ戻る。 「ってか今年から受験生か。プレッシャーじゃないか。アメユキも中学生になって環境が大きく変わるし。不安だよな」 「私も不安だけど。きっといい年になるから楽しみ。もっとわくわくできる年になる、知らないことを知って、できなかったことができるようになって、いろんな体験をしてわくわくできる年になるよ」 「アメユキはすごいな」 「うん。いい年にするための手始めに、にいに部活はいつから?」 「三日からだな」  アメユキは嬉しそうに笑う。 「だったら今日と明日は妹がほしい」 「宿題は?」  今の発言兄らしくない? っと思ったヒウタだが。 「計画的、大体終わったよ、あとは日誌くらい」 「優秀過ぎる、最終日派の人間の妹とは思えない!」 「新年はにいにと、お父さんとお母さんと過ごしたいから」  飛び切りの笑顔。 「あらやだ、この子かわいい」 「お正月、凧揚げ、羽根つき、めんこ、ババ抜き。既に楽しいこといっぱいあるよ!」  というわけで正月は家族みんなで遊ぶことになった。  なお、大晦日にはしゃいで酒を飲んだ両親は昼過ぎに起きてきたが酷い頭痛だったらしい。  その状況で遊ぶことになったがアメユキの前では強がって遊んでいた辺り親というのは偉大なものでたまには変な失敗をするものだな、とヒウタは思う。  そしてこの件からヒウタの両親は酒を飲むことを控えるようになったらしい。  たぶん、二日酔いがアメユキにバレて怒られたのだろう。  憶測で話すのは良くないと分かっているが、もしそのシーンに出会(でくわ)してしまってもヒウタの立場であれば情けない両親を認めたくないのだ。 『様々な恋と向き合う大学生の話。規約違反少女がマッチングアプリで無法過ぎる! 新年用番外編』(完)  
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