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初詣
「ああ、寒い。初夢は大晦日から元旦の夢よりも新年を迎えてからの夢って説が有力らしいけど。新年をこの気持ちで迎えるのは嫌だしホラー系悪夢って絶対駄目だろ!」
ヒウタは赤いペンキの男の夢で目を覚ました。
一月一日、朝の四時である。
ヒウタは炬燵の布団に巻きついて暖を取っていた。
汗で身体が冷えてしまったのだ。
いつもなら休日の朝四時は二度寝を試みる。しかし今日は悪夢の続きを見そうなので諦めた。
ヒウタは高校の冬休み課題に取り組むことにした。
縁起も大切だと思うが運が良い悪いに関わらず自分で道を切り開く力が必要なのだ、自分に言い聞かせる。
来年は大学入試がある。
ヒウタは課題を進めた。
静かな朝、早起きは三文の徳というが課題を静かにのんびりこなせるのは良いかもしれない。悪夢に起こされた分のマイナスを取り返せただろうか?
「というかあの夢は怖すぎるだろ。なんで俺まで赤ペンキ人間になるんだよ」
「え、赤ペンキ人間ってなに? 新年の特番なの?」
「お姫様、まだ五時半ですぞ?」
「ふわあ、普通だよ」
生糸のように滑らかで光沢のある長髪、丸々とした綺麗な目で、ゾウ(リアル寄り)のぬいぐるみを抱えた女の子はヒウタの妹のアメユキである。
ヒウタは現在高校二年生であるのに対して、アメユキは小学六年生と五歳差の兄妹だ。
「早くない?」
「新年は幸せな夢で、すっきりした朝を迎えたいから、私は早く寝たよ」
ヒウタは一瞬、肩をビクッとさせる。
悪夢なんだが。
「そば食べたら一番風呂でテレビも見ずに寝てたもんな」
「九時に寝たよ。いい夢見た。大成功だったの」
「どんな夢?」
「内緒だよ、にいに」
「そか」
「あ、そうだ! 初詣行こう! お父さんもお母さんも起きないでしょ?」
「昼までに起きてくるかも怪しいだろ、あれは。昨日酒も飲んでたしどうせ寝坊だよ」
アメユキは急いで着替えに行ってしまった。
ちなみに、父と母は大晦日、仲良く特番ではしゃいで夜更かし。
仲良い夫婦ですこと。
本来ヒウタは巻き添えを食らって夜更かしをしていたが、赤ペンキ人間の力によって目覚めてしまったのだ。
悪夢の可能性さえなければ二度寝したい気分である。
「仕方ないな。地元の神社くらいは行くべきか」
ヒウタとアメユキは厚着を着て肩掛けバッグを。
家を出る。
新年は寒い。
「にいに、五円玉ある?」
「一枚はあるから。俺は十円かな」
「来年ボッチにならない?」
「初詣行かない人間もいるわけだし、ボッチにするならそっちだろ」
地元の神社。徒歩五分くらいにある小さな神社である。
春になると桜が満開になるため、地元民が集まることもある。
たまに小さな縁日のようなこともやっている。
「寒い、手袋忘れたね」
「本当だ」
神社に着く。
鳥居をくぐって賽銭箱に五円玉、十円玉を投げる。
アメユキとヒウタは一連の所作を行って手を合わせた。
目を瞑る。
「無事に新年を迎えることができました。来年良いことありますように」
ヒウタはアメユキには聞こえない声で言う。
ヒウタは目を開けた。
「じゃあ、アメユキ。……」
アメユキを見るとまだ祈っていた。
よく見るとその手は真っ赤になっている。
この寒さで手袋を忘れてしまえば、悴んでしまうのは仕方ない。
でも何をこんなに長く祈っているのだろう?
「よし! にいに、帰ろ」
「そうだな。でもその前に温かい飲み物でも買って帰ろう。手が赤くなってるし」
「にいにだって。でも私お金持ってきてないよ?」
「もちろん出すよ。高校生と中学生のお年玉、いくら違うと思っているんだ」
「ええ、けど高校生ってお金たくさんかかりそう。部活で使うやつとか、参考書とか、購買のパン! とか」
「ふふふ、それでも大差がつくほどもらえるのだよ」
とヒウタは強がってみる。
「分かった。奢ってもらう」
「何にする?」
「ココアとかかな、温かいの」
神社近くの自販機に来た。
アメユキは『あたたかい』にある飲み物を一通り見ると、一瞬躊躇ってココアを指す。
「隣のやつも一応飲み物だぞ。それに飲み物しか買わない! ってわけでもないし」
「ほんと!」
アメユキは目を輝かせる。
「俺もそれにするから」
「贅沢かも!」
「分かるっちゃ分かるけど。冬限定商品って書いてあるし」
コーンポタージュ缶を二つ購入した。
思ったよりも温かい。
「わあ、ありがとね」
「大げさだな」
と言いつつも内心ガッツポーズをするのが兄である。
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