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写楽
日が西へ傾くと途端に図書館の利用客が減ってきた。ボクの周りも空席ばかりだ。かすかにひぐらしのなく声が聞こえてきた。
ボクの名前は東写楽と言う。父親が写楽のファンだからだ。
名前からして普通の小学生よりも浮世絵について詳しい。
特に写楽についてはどの歴史の教師よりも遥かに勉強しているつもりだ。
ボクは毎年、小学校の夏休みの自由研究に『東洲斎写楽』のことを調べていた。
今年の夏休みも同様だ。
しかし調べれば調べるほど謎が多い。
『写楽の正体』
それこそがボクの夏休みの自由研究の課題だ。
数年に一度、写楽ブームが巻き起こる。
写楽は日本四大浮世絵師(一説によれば、六大浮世絵師)の一人だ。数多くいる浮世絵師の中でも有名なのが写楽と北斎だろう。
表紙にある浮世絵を見たことのない人はいないはずだ。
そして写楽の正体は未だに不明とされていた。
だがボクの見立てでは写楽の正体は『葛飾北斎』だと思っている。しかしそれでもいくつかの矛盾が生じた。
なにしろ写楽は謎の浮世絵師だ。活躍したのは、江戸中期のたったの十ヵ月間だけ。
その間に百四十点以上の浮世絵を制作した。そしてその後、忽然と姿を消し二度と現れることがなかった。まさに彗星のような浮世絵師と言って過言ではない。
図書館の机の上には写楽関連の本が並んでいた。そこへ不意に木の葉が舞った。
「えェ……?」
ボクは木の葉に驚いていると突然、美少女の笑い声が響いてきた。
「フッフフ……」
どこからともなく可愛らしい少女の笑い声が耳に届いた。
「な?」いったいなんなのだろう。
木の葉が渦を巻いて徐々に人影が現われた。
「だ、誰ェ……?」
「フッフフ、われこそは忍ばない! 甲賀の『くノ一探偵』咲耶、見参!」
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