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写楽の正体
咲耶は机の上に乗ったままボクに刀を突きつけた。
「わかったわ。お前はずっと写楽別人説を調べているわね」
「ええェ…、まァ」なんで知っているのだろうか。
「そして、写楽の正体を突き止めたんでしょ?」
「え、ボクがですか?」
「そうよ。答えは何なの。申してみなさい」
「いや、それは小学校の自由研究での話しですけど」
「いいわよ。それでも、あなたなりの解釈をお聞かせ?」
グイッと喉仏に刀を突きつけてきた。
「はァ、あのですねェ。それよりもまず刀を鞘に仕舞ってください。こんな危なっかしい状態では話しができませんよ」
「ぬうゥッ、ワガママなやつだな」
仕方なく彼女は刀を鞘に戻した。
「いえいえ、どっちがワガママなんですか。ボクの答えは前々から決まっていますけど」
ようやくほっとひと息ついた。
「ふぅん、じゃァ言ってご覧。誰かしら?」
「はァ、それはおそらく葛飾北斎ですよ」
「ヘェッ、北斎ねえェ!」
また彼女にギロッと睨まれた。
「ううゥッ、そうですか。北斎だと、なにかご不満でもあるんですか?」
また機嫌を損ねてしまったのだろうか。
「そうね。だって一説によると北斎はあまり役者絵に興味がなかったと言われてるでしょう」
「ええ、よくご存知ですね。そうです。北斎はその長い生涯で3万点以上、膨大な量の作品を残してますが役者絵に限っては数点しか残ってませんからね」
「そうよ。だから北斎は役者絵を嫌っていたんじゃないかって。これでも咲耶は北斎について詳しいのよ」
「そうなんですか。ですけど、だからこそ逆に北斎こそが写楽だと言えるんですよ」
「ふぅん、逆に北斎こそ?」
「ハイ、写楽は十ヵ月あまりの短期間に百四十点も役者絵を描いたんですよ。もう役者絵を描くのはうんざりだったはずです」
「ふぅん、うんざりねえェ……」
咲耶も思案投げ首だ。
「そうです。事実、写楽の浮世絵の代表的な作品は初期の大首絵と呼ばれるモノで。始めの数十点は誰が見ても素晴らしかったんです。ところが徐々に情熱が覚めてきたのか、後期の全身絵は覇気が失くなってしまったんですよ」
「なるほど、飽きてしまったから北斎は役者絵に興味が失くなったと言うのね」
「ええェッ、そうです。百四十点も描いて飽きてしまったんです。だからのちに北斎の名で役者絵を残したのは、ごくわずかしかないんですよ」
「フフゥン、面白いわ」
取り敢えず咲耶も笑顔でうなずいた。
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