序章

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 若者であふれ返る休日の渋谷で、東雲(しののめ)(あき)は暗い表情を浮かべて、とぼとぼと歩いていた。  二十四歳になったばかりの晨にはコンプレックスがある。  男らしくなりたかったのに、顔のつくりは中性的で、栗色の髪はふわふわしているし、百七十センチに届かない華奢な身体は弱々しく見える――と、晨自身は思い込んでいる。  実際、外見の特徴は捉えているものの、他人からの印象は少し異なるようだった。  晨は細い指で髪を耳にかける。 「これだから、人は怖いんだ」  辟易とした感情が滲み出た呟きに、すれ違った男性がちらりと視線を寄越してきた。  晨はそれを無視し、視線を落としたまま、足早に駅を目指す。  イラストレーターとして依頼を受けている顧客との打ち合わせを終え、後は家に帰るだけ。  そんな晨がここまで不機嫌になっているのは、晨にとって、ごくありふれた出来事のせいだった。 『東雲さん、今度、一緒に食事に行きませんか?』 と受付で誘われ、 『彼女はいるんですか?』 と、打ち合わせ直後に、女性社員に聞かれ、 『俺、いけますよ』 という、反応に困る言葉を投げてきた新卒の男性社員までいた。  晨はそれらすべてを丁重に断り、足早に社屋を出てきた。
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