記憶の欠片を探して

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   * * * 「返事を、したいの」  彩がそう告げると拓が息を呑むのが分かった。彩は頭を下げる。 「ごめんなさい。……他に好きな人がいるの」 「……そいつには好きだって言ったの?」 「……言ってない」 「なら、言ったほうがいいよ。絶対相手も彩の事を思ってるって。俺が保証する」  彩に向ける幼馴染みの笑顔の中には苦しみや葛藤が隠れていた。それでも彩は気づかないふりをして答える。 「ありがとう」  拓にもいい人が見つかるよ、とは酷になると思い、言えなかった。  彩は一つ嘘をついた。『好きな人がいる』こと。  彩の心のなかには何かポッカリとした気持ちがあった。しかし彩はその正体に気付けなかった。それでも、拓のことは運命の人だと思うことは出来なかった。  もっと他に、自分を夢中にさせる誰かがいたはずだった──。 ─Fine─
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