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太陽の家 1
部屋の中をスマホのアラームが鳴り響く。僕は、身体に巻き付いたそのスマホの持ち主の腕をバンバン叩く。
「結!早く止めてよ」
「………うーん」
唸るように身体を動かした結の手が枕元を彷徨い、やっとアラームの音が止まった。
二人で順番に身体を起こし、順番にベッドを出る。
4年前から何も変わらない僕らの朝。
今日から高校生になるのに………
ぼやけた目を擦りながら部屋を出ると、食堂から賑やかな声が聞こえてくる。
「おはようございます」
言いながら、結のあとに続いて中に入ると、厨房から蓮(れん)さんと響(ひびき)兄さんの言い争う声が聞こえてきた。
「だから、予備校へは行かないってずっと言ってるでしょ!大学に行くとも言ってないし」
「響………お前の成績ならって、昨日先生に言われただろう。金のことなら、どうとでもなるから」
「あのさ、大学と違って予備校は奨学金なんてないんだよ」
二人の言い争いは、もうかれこれ二ヶ月ぐらい続いてるから、誰も気にも止めずテーブルに着く。
今日の朝食の当番の凪(なぎ)兄さんが、並んだ皿に黙々と目玉焼きをのせて、もう一人の当番の朔(さく)兄さんがグラスに牛乳を注いでいく。
「蓮、響。朝ごはんだよ」
ばあちゃんの静かな一言に、大声で騒いでいた二人も黙ってテーブルに着いた。
「いただきます」
凪兄さんの横で今年から保育園の年少さんになる陸(りく)が、小さな手を合わせて挨拶をする。
その声を合図に全員揃って「いただきます」の挨拶をして朝食を食べ始める。
ずっと変わらないこの瞬間が、僕はとても好きだ。
当たり前の日常を不意に失った4年前。この当たり前がどんなに大切か思いさらされた日々。
そんな僕を救ってくれたのが、この太陽の家だ。
児童養護施設。何らかの事情で親が育てられなくなった子ども達が暮らす場所。だから兄さんと言っても、僕らは誰も血が繋がってない。
僕は4年前のある日、事故で両親を一変に失いここに来た。
ばあちゃんが作った太陽の家。
今は、ばあちゃんを含めて9人で暮らしている。
「あぁぁ、腹減った。ばあちゃん、ごめんなさい。遅くなりました」
目玉焼きの黄身を口に入れようとした瞬間。バタバタと足音を立てて、新(あらた)が帰ってきた。ジョギングを毎朝の習慣にしてる新。
それでも陸の「いただきます」には、必ず席に着いてるのに…………
「何かあったの?」
僕の隣にドスンと座って、牛乳を一気飲みする新に聞く。
「知らない女の子に声を掛けられて。もしかして告白?なんて思ったら結兄さんの事を聞かれただけだった。笑顔で振り返ったのに、損したよ」
ばあちゃんに聞こえないように小声で答える新。
「クク…残念だったね」
ほっぺを膨らませ文句を言ったと思ったら直ぐに目玉焼きを掻き込む。そんな姿が、まだまだ可愛い。
その話が聞こえてるのか聞こえてないのか、隣で結も黙々とパンを噛っている。
僕の大切で愛しい朝の風景………
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