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太陽の家 4
「結!久しぶり。今日からまた同じクラスだよ」
結と同じクラスの名簿に自分の名前を見つけて安心していると、後ろから来た女の子が結に声をかけた。
初めて見る顔。肩より短い髪がとてもよく似合ってる。
「もしかして、あなたが紬くん?やっと会えたね!私、陽子の娘の美咲です。今日から同じクラスだね。どうぞよろしくね」
はきはきと明るい笑顔で話す美咲に、好印象を持った。陽子さんに似ている。
「こちらこそよろしくお願いします」
思わず敬語で答えると、美咲が一歩近づいた。
「可愛い!お母さんが紬くんは小さくて可愛いよ~って言ってたけど、本当に可愛いんだね。お餅みたいな柔らかそうな頬っぺたが赤ちゃんみたい!」
言いながら美咲が僕の頬に触れようとしたから、驚いて一歩下がってしまった。
「美咲、ぐいぐい来すぎ」
結の手が僕をそっと庇う。
「ごめんね、ずっと話を聞いてたから紬くんのこと身近に感じてて……」
顔の前で両手を合わせて謝る美咲に、首を横に振って答えた。
「こいつ、こんなんだけど悪いやつじゃないから」
美咲を指差しながら言う結に「どういう意味よ」とその肩を叩いて美咲が笑っている。
「確か、小学校の時ずっと同級生だったんだよね?」
僕が言うと、二人が首を縦に振って頷く。
「中学は違ったから、紬くんには会えなかったんだけど、これからは一緒だね。私とも仲良くしてね……さあ、先生来るよ。席に着こう」
時計を確認する美咲に、促されるままに教室に入った。
面倒見のいい陽子さんを、そのまま若くしたような美咲。初めての場所で最初の友達が出来た。
出席番号順の席は、結と美咲と少し離れた場所だった。周りは知らない顔ばかりかと思ったが、中学の時にみた顔も何人かあって少しほっとする。
直ぐに担任の先生が来て、廊下に並んで体育館に向かった。
そわそわと落ち着かない入学式。
上級生がやたらと大人に見える。なんとなく不安で、後ろに並んでいる結の方を見た。
結の目線は、体育館のステージの上の方を向いていて少し退屈そうだ。
ふと僕の視線に気づいたのか、結の目が僕の方に降りてきた。そのままふわっと笑う。
その途端、僕の周りで女の子達が小さな声で「きゃー」と言った。
「格好いい」とか「可愛い」とか、小さくはしゃぐ声があちこちから聞こえてくる。
その声を知ってか知らずか、また退屈そうな顔でステージの少し上の方を見る結。
中学の頃から女の子にもてる結。でも本人は、そのことを全く気にかけてない。
彼女がいたこともないし、好きな人の話も聞いたことがない。
結の好きな人か………いるのかな………
僕はぼんやりと、そんなことを初めて考えた。
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