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好きなのに 2
僕がお風呂から出ると、先にベッドに入っている結。
昨日までと違う様子に、少し心配しながら隣に寝転がった。
「………結、どうかした?」
「…………別に」
言いながら僕に身体を寄せる。
「もしかして緊張してる?みんなに久しぶりに会うから……」
「緊張なんてしないよ………」
返事が少し小さくなって、僕は結の顔を見ようと身体の向きを変えた。
下を向いている結の顔、その頬に触れる。
「みんな待ってるよ」
僕の言葉に顔を上げた結が、僕の腰に手を当てて身体を更に寄せた。
「…………結?」
結の顔が、僕の顔に触れそうなくらい近づく。
ずっと一緒に眠っていたけど、こんなに顔が近づいたことはない。思わず頭を後ろに反らそうと力を入れると、結の手が僕の後頭部を押さえた。
「………結……なに?」
力強く押さえられた身体と頭をどうにかしたくて、両手で結の胸を押す。
「………………紬………嫌?」
「何が?どうしたの、結…………痛いよ」
「……………紬」
天井についた常夜灯の明かりの下。結の顔が今にも泣きそうで、ふと力が抜けた。
その瞬間、目の前まで結の顔が近づいて、唇に温かいものが触れる。
震えながら………でも強引に押し付けられた唇。
すぐに離れた唇に、身動き出来ずに結を見つめる。
すると、もう一度結の顔が近づいた。
またキスされる……思った瞬間。僕の右手が動いて結の唇を覆った。
結の目が一瞬で色を失くす。
「………ごめん」
そっと僕の手を唇から離すと、結が言う。
僕はベッドから出ようと、身体を起こした。
「紬……ごめん………悪かった…………
だけど………頼む……一緒にいて」
僕の手首を掴んだまま言う結。
新…………
なんで僕は、大声で怒ってこの手を振りほどくことが出来ないんだろう…………
結のあんな顔は初めて見る。苦しくて切なくて動けなくなってしまう。
結局僕は、結に背中を向けベッドに横たわった。
背中に結の頭がコツンと触れる。
「ごめん…………ありがとう」
微かに聞こえた声にも、僕は何も答えられなかった。
キスされた唇だけが妙に熱くて、自然と溢れそうな涙を必死で堪えた。
一睡も出来ずに迎えた朝。それはたぶん結も。
毎日かけてる携帯のアラームが七時を告げて、僕はベッドから出た。
まだ残っていた結が買ってきてくれた食パンを、二枚トースターに入れる。お湯を沸かしコーヒーを入れる準備をしていると、扉の開く音がした。
「紬……おはよう」
「…………おはよう」
「…………昨日はごめん」
「………もういいよ。分かったから……謝るなよ。でもあんな風にふざけるのは、もう無しだからな……」
「……………うん」
ふざける…………
自分で言いながら、そんなことはないと分かってる。
昨日のキスは本気だった。
それは…………僕が結にとって本気のキスをしたいと思う相手だから?
でも何も言われてない。結の気持ちも、ましてや僕の気持ちも確かめられてない。
もやもやした気持ちのまま、言葉少なに食事をして、家を出た。
このままじゃ、新にもばあちゃんにも心配をかけてしまう。
結とちゃんと話さないと…………
頭では分かってる。
でも、何を?
今さら結の気持ちを聞いて、僕はどうするの?
それに昨日のキス…………
僕は、どんな顔で新に逢えばいいの…………
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