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好きなのに 3
太陽の家の最寄駅で電車を降りて改札を出ると、ロータリーに見慣れた車が停まっていた。
車の側には、凪兄さんと朔兄さん、それに蓮さんも立っている。
その様子を見た結が、一瞬立ち止まる。
「結?」
「うん………いや、帰ってきたなって思って」
結の目が、眩しそうに三人の兄と車を見ている。少し上がった口角が、結の嬉しさを表してて…………
「ここに帰ってきたかった」そう言っているようだった。
「紬、行こう」
不意に手を握られる。そのまま駆け出して車まで向かう結。
僕達に気づいた凪兄さんが、笑顔で手を振った。
朔兄さんは僕達に向かって走りだし、目の前まで来ると結をぎゅっと抱き締める。
「……元気だったのか」
結は僕の手を離して、朔兄さんの背中に腕を回した。
「うん」
答える結の髪をくしゃくしゃ撫でて朔兄さんが離れると、今度は蓮さんが結の首をぐっと引き寄せた。
ヘッドロックをかけて、結の頭を拳骨でぐりぐりする。
「心配かけやがって、なんで連絡一本寄越さないんだよ」
「蓮さん、痛いよ!ごめん、悪かったって」
結が蓮さんの腕を叩いて、やっと頭が離された。
「まったくお前は………紬がどれだけお前の連絡を待ってたか分かるか?」
「うん………だからもう離れないよ」
僕の肩を抱きそう答える結。
兄さん達が「そうだぞ」とか「そうしろよ」なんて笑いながら言い、車に乗り始めた。
結の「離れないよ」の言葉に、昨日のキスが浮かぶ。
素直に結が側に居てくれるのは嬉しい。でもそれは、親友として兄弟としてだ…………
だから………
早く…………伝えないと。
僕と新のこと。僕達が恋人になったこと、新が高校を卒業したら一緒に暮らそうと思ってることを………
太陽の家に着いてからも結は、ばあちゃんに抱き締められ、先に来ていた響兄さんに怒られ、まるで幼い頃の僕達に戻ったように笑う。
新も部屋から出てくると、結に向かって手を広げた。結は新を抱き寄せ「元気だったか」と声をかけてる。
そんな二人を後ろから見る僕。新は僕と目を合わすと優しく微笑んだ。
今は少し複雑な僕達三人だけど、小さい頃はいつも一緒にいた。
ひとつ年下の新を、結はとても可愛がっていて、僕が来るまでは二人でいたずらしたり、冒険に行ってしまったり…………
怒られるのは二人が一番多かったって、ばあちゃんに聞いたことがある。
だから結が帰ってきて、新が嬉しくないわけがないんだ。
「さあ、みんなでご飯だよ!」
ばあちゃんの一言に、みんなが昼食の準備をする。
懐かしい雰囲気に、こんな風に戻れるならと、僕の不安が薄らいでいく。
みんな自然と、それぞれが座っていた場所に座って食事を始めた。陸が居ないのは残念だけど、小学校の入学式の写真をばあちゃんが見せてくれた。
「陸が1年生か………」
可愛い末っ子のランドセル姿に、みんなの頬が緩みっぱなしだ。
テーブルには結の好物が並んでて、久しぶりのばあちゃんの手料理に、結は箸が止まらなくなってた。
「それで、結はこれからどうするか決めたのかい?こっちに戻るなら、しばらくの間ここに帰ってきてもいいんだよ」
たくさん並んだ料理の皿がすっかり無くなったタイミングで、ばあちゃんが話し始めた。
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