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お昼に遊園地のレストランで焼きそばとカレーを食べたときも、奏はずっと黙っていた。
「次は、何に乗りたい?」
と、おばさんが優しく話しかけてくる。
「たっくん、ジェットコースター!」
巧が元気よく答えると、おばさんは優しく笑って、「いいね」と言った。
そこで初めて、奏が怒ったようにきっぱりと言う。
「ぼく、お父さんと乗る!」
おばさんは少し悲しそうな顔をした。
いつも何でも、「たっくん、どっちがいい?」と、巧に先に選ばせてくれる奏がそんなことを言ったので、巧は驚く。
でも、かなくんは人見知りだから、きっとまだ、おばさんに慣れないのだなと思って、巧はにこにことこう言った。
「じゃあ、たっくん、おばさんと乗るね」
父が少し、安堵のようなためらいのような溜め息をついたのを巧は聞いた。
奏は、憎たらしそうに、とさえ思える表情で、巧を睨んだ。
そんな顔をされたのは初めてだったので、巧は、奏を怖いと思った。兄をそう感じたのも初めてのことだ。
どうしてそんな顔をされるのかわからなくて、巧は泣きそうになったけれど、今はもう、奏のほうが泣きそうな顔をしていた。
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