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「ごめんね。ごめんね、巧。お父さん、間違ってた」
父は、かがみ込むと、その全身で巧を覆うように、巧の肩に手を回して泣き、そしてこう言った。
「お母さんは、……まりえちゃんは、もう二度と戻ってこないんだよ、巧」
その腕を小さな手で抱きしめながら、巧は思い出した。
そうだ。まりえちゃんは、オコツになってしまったのだった。
お葬式のあと、おじいちゃんが言った。
まりえちゃんは死んで、その体は焼かれてしまったのだと。そして白いオコツだけが残った。そのオコツを、巧も一つだけ、怖々とお箸で拾って、壺に入れたのだった。
もう、お母さんは戻ってこないんだよと、おじいちゃんは言った。
巧は忘れていたのだ。忘れたかったから。
もう二度とまりえちゃんが戻ってこないだなんて。
でも、本当は知っていたのだ。
忘れても無駄だった。
死ということの意味を、巧は今、叩きつけられた気がした。
それから、あのおばさんに会うことは、もうなかった。
- 了 -
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