追憶は灯火のように

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 しばらくして遺品整理をしていると、妻の鏡台の引き出しから一通の手紙を見つけた。  不思議に思い中を覗いてみると、それは私宛の手紙だった。  以下が手紙の内容だ。  吉蔵さんへ  私はボケてしまっているから、今のうちに手紙を書こうと思います。  恐らくですが、私の方が先に逝ってしまうと思います。あなたのことですから、自分もすぐにそっちへ行こうと思っているのでしょう?それはいけません。あなたにはまだ息子も孫もいるのです。まだ、一家の大黒柱としての仕事は終わっていませんよ。私が過ごせなかった分、息子と孫に残りの人生を使ってあげてください。  読み終える間もなく、私は涙を溢す。まだ、流れる涙があったとは。  手紙は滲み、視界もボヤけてしまう。  妻に泣かされるのはこれで2回目だ。私は泣きながら思わず笑みを溢した。 「当たり前だ、馬鹿野郎…」  妻との思い出と一緒に、力一杯に手紙を抱きしめた。  私は絶対に忘れない。何があっても、愛するキミヱとの思い出は、常にこの胸に灯し続けると誓う。  妻の手紙の一言一句を忘れないまま、私は今年で80歳を迎えた。
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