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第二話 ホラー by乃上さり
亜図魔博物館には中1の校外学習で行ったきりだ。
授業が終わった私は、明るいうちに一度現場を下見しておくことにした。
“現場“って、なんかスリルあるっ!
「ごめん! 今日、用事あるからお先!」と友達に断った私は、急いで教室を飛び出した。
亜図魔山はこの町のはずれにある、小学校低学年の子が遠足に行くような小さな山だ。麓から頂上付近まで階段があり、それを上りきると亜図魔博物館があった。
今日は月曜日で博物館は休館日だ。ダダビビデ像の周囲を探っても、怪しまれる心配はないだろう。
私は意気揚々と、途中からゼエゼエなりつつもなんとか上りきった。
階段の上、綺麗に手入れされた庭の向こうには煉瓦造りの博物館があり、その右手にダダビビデ像があった。
私は迷わず像の方へ向かう。
像の後ろを回ると、あの声が言っていたように確かに細い道が建物の後ろの方へと続いていた。
その道に足を踏み入れようとした途端、「やあ、こんにちは」と声がかかり、私は固まってしまった。
振り返ると、白髪に白い髭のおじいさんが立っていた。草むしりをしていたようで、しゃがんでいたから気付かなかった。
「こ、こんにちは」
「亜図魔西中の生徒だね? どうしたの? 今日はお休みだよ」
中1の校外学習で説明をしてくれた、博物館の館長さんだ。私の制服でどこの中学かわかったんだろう。
「は、はい。あの、階段上ってきたら休館日だったんで、ちょっと周囲でも見学しようかなって」
しどろもどろに答える。
「そうか。残念だったね」
館長さんはにこにこしていた。
「あの」と私は思い切って聞いてみた。
「このダダビビデ像の後ろの道は、どこに繋がってるんですか?」
「ああ、その先に頂上に続く階段があるんだよ」
「階段?」
私は、博物館からさらに上に行く階段があることを初めて知った。
もしかしたら……。あの声が言っていた階段っていうのは、頂上へ行く階段のことかもしれないと閃く。
「頂上には何があるんですか?」
「古い祠があるんだよ。もう今は誰もお参りしない祠がぽつんと残っているんだ」
祠? そこに宝が隠されているってことはないだろうかと、私は考えた。
すると館長さんは、その祠にまつわる昔話を聞かせてくれた。
昔、この山には魔物が棲んでいた。
魔物が怒ると天候が荒れて凶作になった。
凶作が何年も続いたある年、魔物の怒りを鎮めるために村一番の美しい娘を生贄に捧げることになった。
娘には許嫁の若者がいたが、「どうぞあなたは新しい人を探して幸せになってください」と告げ、泣く泣く別れて生贄となり、魔物の怒りは収まった。
山頂には魔物が再び悪さをしないよう、また生贄の娘の鎮魂のため、祠が造られた。
生贄の娘と無理やり別れさせられた許嫁は、やがて娘の遺言通りに嫁をもらい、それを亡き娘に報告しようと夫婦で祠を訪れた。
新婚の夫婦が山頂の祠に並び祈ると、突然あたりが真っ暗になった。
「辺りが明るくなって若者が隣を見ると、新婚の妻は首をもがれて死んでいたそうだ」
館長さんが話し終わり、その残酷な結末に私はぞっとした。
「あの、その祠には行けますか?」
「残念ながら、立ち入り禁止なんだよ」
「立ち入り禁止?」
「あれ? 知らないのかい? 去年の夏、深夜に肝試しをしようとした若者達が階段を上って、事故が起きたんだよ」
「事故?」
「うん。何があったのかパニックになり一斉に階段を降りて来たんだけれど、女の子が一人行方不明になってしまったんだ」
「えっ? 行方不明?」
事故というより、事件ではないかしら?
「そうなんだ。その子は数日後に階段の下で茫然としているのを私が発見したんだ。しかし“娘が、娘が……”と言うばかりで、その数日間どこにいたのか、何があったのかまったく覚えてなくてね。事故として処理されたんだよ」
そんな恐ろしい出来事があったなんて知らなかった。
「それ以来、“亜図魔山の祠に男女で参ると、生贄にされた娘が嫉妬して呪いがかけられる“という都市伝説が広まってしまった」
館長さんは困ったように言う。
「まあ、そんな事があったもんだから、立ち入り禁止にしたんだ」
館長さんの言葉にちょっと階段だけ見てきますと断って、私は像の後ろの道を進んでみた。
階段の上り口にはロープが張られ、“立ち入り禁止”の札が下がっていた。階段の下から頂上の祠は見えない。
(その祠に宝があるのかな? あの声の主は、危険を冒してまでどんな宝を奪いに来るのだろう?)
私は階段を見上げ考えた。
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