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「今日、仕事お休みだった」
「えっ、休み?」
「うん、遅れそうだから連絡しておこうと思ってね。スマホで日にち見たら、勘違いに気付いたの。えへへ」
困ったような顔に見えたのは、恥ずかしさを浮かべていただけだった。照れたような笑い顔がなんともかわいい。
「そうか、休みか、良かったじゃない。うん」
俺は笑顔で頷いた。そう、これでゆっくり食事が出来る。耳たぶももうほとんど痛くないし、全て元通り、何も問題なしだ。
「冷めちゃったから、コーヒー温め直すね」
マグカップを電子レンジに入れようとしたとき、菜奈ちゃんの動きが止まった。何かに気付いたように目を見開く。
「あれ、この音。洗濯機動いてる?」
「あ、うん。俺が間違えて……」
あれ、誤魔化すはずがつい気が緩んで本当のことを言ってしまったではないか。菜奈ちゃんの眉が不機嫌そうに歪む。
「レンくんっ」
もうここは素直に謝るしかない。
「はい、ちゃんと確認しなくてごめんなさい」
頭を下げると、ふふふと声がする。不思議に思って顔を上げると、菜奈ちゃんが笑っていた。
「レンくんってば、ほんっとにぼおっーとしてるんだから。あたしがいないとだめね」
「はい」
ぼうっとしているわけではなかったが、菜奈ちゃんがいないとだめなのは確かだ。
「朝ごはんにしよっ」
「うん、そうしよう」
ほっとしつつ、にっこりと笑い返した。
こうして俺たちは食卓につく。他の家庭はどうだか知らないが、俺にとってはこれが日常だ。
焦げた目玉焼きの味?
もちろんうまいに決まっている。
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