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「あ、トキくんだめっ」
菜奈ちゃんが枝を揺らして、ようやくトキサブロウが離れる。じんじんと耳たぶが痛む。
「レンくん大丈夫? トキくんがごめんね」
「いや、平気だよ、これくらい」
菜奈ちゃんに謝られたら怒れない。命拾いしたな、トキサブロウ。
とにかく洗って、消毒しないと。菜奈ちゃんを心配させないために苦笑いで洗面所へ直行する。
流水に耳たぶを浸す。どうやら出血はしていないようだ。安心かため息か分からない息を吐いたとき。
「きゃあっ」
三度目の悲鳴が上がった。
どうしたのだろう、まさかトキサブロウが菜奈ちゃんに噛み付いたのか。それだけは許さない。闘志満々で居間へ駆けつけた。
「あれ……?」
トキサブロウはすでにケージの中に戻っており、菜奈ちゃんはダイニングテーブルの前に立っていた。手に握ったスマホを見ている。何か悪い知らせを受けたのだろうか。
「どうしたの?」
「うん、あのね……」
困ったような顔を見せてくる。泣いちゃうようなことじゃないよね?
祈るように次の言葉を待つと――。
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