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『おい!!!』
賑やかな空気をぶち壊すように響き渡った怒号。
その場にいた人間全員の視線がその方へと向く。
「アンタ、ふざけんなよッ!!」
そこにいたのは息を荒げる少年。
戦禍に散っていった人間のことについて、何の言及もしないヒーローとマスコミに我慢出来なくなった彼は、とうとう飛び出してしまっていた。
『知り合いですか?』
記者の一人が男の方を見ながら訊ねる。
男は一瞬苛立った表情を見せた後、直ぐに即席で作った偽物の笑顔で答えた。
【いいや。君、迷子かな?】
ゆっくりと歩み寄りながら少年へと近付いていく男。
「……お前のせいだ!」
【ん?】
「お前のせいでッッ!!」
走り出した彼は飛び掛かりながら全力で握った拳を男の顔面に叩き込んだ。
バゴッ!
悲鳴が上がり、辺りは騒然とする。
【何の真似だい?】
鼻血が垂れ、男は少年の腕に爪を食い込ませながら問い詰める。
「ぐっ!放せっ!」
痛みに顔を歪める少年。
【おいおい!君の方から殴り掛かってきたんだろ?
大衆の面前だ……やり返すような真似はしないさ。子供で良かったな、坊主】
後方にいる記者達にバレないように小声で囁く男。
しかし、その声には気圧されるほどの殺意が込められており、逃げるように後退ってしまう。
「俺のお父さんとお母さんを奪っただろ!!」
爪の痕には血が滲み、傷口を押さえながら、敢えて記者にも聞こえるように大声で叫ぶ。
【あぁ、巻き込まれた口の奴か。よくいるよな、逆恨みもいいところだろ。
恨むなら悪者を恨め、クソガキ】
「わざわざ市街地で戦う必要があるのかよ!!
戦う場所くらい考えられないのか!!」
男は彼の言葉に薄ら笑いをした後に後ろを振り返り、状況に困惑する記者達に説明し始める。
【皆さん、ご心配なく!!彼は戦禍によって両親を亡くした憐れな子供だ。
私を殴ってしまったのも恐らく錯乱状態によるものでしょう】
『成る程、そうだったんですか』
口々に納得していく記者達。
【所詮子供のやったことです。本来ならヒーローに対する“侮辱”と“暴行”で罰せられてしまいますが、ここはどうか私の顔に免じて見なかったことにしてあげてくれないでしょうか?】
深々と頭を下げる男。
その様を見た記者達は次々に拍手をしていく。
パチパチパチパチ!!
「ふざげんなっ!!お前が……お前が──」
【これ以上、事を荒立たせたいか?】
「ッ!」
彼の肩に置く男の手は、ただ置いているだけのように見えて、脅しを掛けるように強く鷲掴みにしていた。
「(全く動けない!?)」
大人と子供ということもあるだろうが、巨岩で押さえ付けられているように全くの身動きが取れなかった。
肌で感じさせられたヒーローとの圧倒的な力の差。
パチパチパチパチ!!
【残念だったな。お前がどれだけ被害者面しようが、逃げ遅れたのが悪いんだよ。
ここはそういう世界だ】
「うぅ……うぅ……!!」
少年はただ俯いて、自分の非力さと悔しさから溢れた涙を地面に落とすことしか出来なかった。
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