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【暗闇は怖いよなぁ~!】
じわじわと恐怖を与えるようにわざと大きく足音を立てるスレッド。
「うわぁぁぁああ!!」
視界を奪われ、錯乱状態となった青年は声のする方へ我武者羅にバットを振り回すが当たるわけもなく、男を嗤わせるだけだった。
【フヘヘ!さっきまでの威勢はどうしたよ?バンビボーイ】
「ふぅー!ふぅー!」
呼吸を何とか整えながら立ち上がり、距離を取る青年。
視界が零ながらも、完全に舐めているスレッドがわざわざ声を上げる為、おおよその位置は把握出来ていた。
“正義”と“一般人”……開いた力の差はあれど、十年もの間、裏社会で死線を潜ってきた経験は今だからこそ活きる。
「ふぅーー!」
【ほう、よくもまぁ錯乱状態から……大したもんじゃねぇの】
これで終わりだと思っていたスレッドが思わず驚くほど、直ぐに冷静さを取り戻した青年。
彼はバットを持ち直し、精神を研ぎ澄ます。
【気に喰わねぇな~!もっと小便撒き散らして発狂してくれよ!!】
距離を詰めてくるスレッドに対し、暗闇のまま構えた青年は男の足音や衣擦れ、風を切る等といった情報を感じ取る事に全てを注ぐ。
【イヒヒ!刻んでやるよぉ!!】
自身の爪を鋭利な形へと変形させたスレッドは彼の顔目掛けて、引っ掻こうとする。
だが、その寸前──
ドシッ!
【ッ!?】
間合いを完全に掴んだ青年は足払いで男の身体の軸を崩し、怯んだ隙にバットを一瞬脇に抱えつつ、スレッドの頭を鷲掴みにしながら思い切りの頭突きを喰らわせる。
ゴツッ!
【ぎゃぁあ!!】
額を押さえ、後退った男の頬を大振りに放った拳が抉る。
パァァアン!!
【ぎっ!てっめぇぇえ!!】
ぶちギレたスレッドは爪で反撃。
しかし──
ガキィーン!
動きを予測していた青年はバットで、それを防いだ。
金属音と共に火花が散り、青年の両目を覆っていた蜘蛛糸に付着。
火の粉が触れた場所が少し焦げた事を感じた青年は、とある事を思い付く。
「動きが単純で助かるよ」
【何だと!!】
わざと挑発し、更なる攻撃を煽る。
スレッドはまんまと乗り、両方の手を使って連撃。
ガキィーン!
ガキィーン!
ガキィーン!
「ぐっ!」
流石に全ては防ぎきれず、多少の被弾。だが、その成果は確かに──
ブワッ!
【しまっ──】
気付いた時には遅かった。まさか自分の攻撃が青年の助けになるとは思わないのだから。
青年は発生した火花が自分の顔面に来るようにしており、大量の火花は発火に十分過ぎる程であった。
「凄ぇよ、お前の糸は。コンクリートブロックでもぶつけられたみてぇな衝撃と固さ。
だが、糸である以上は火に弱い……お前の引っ掻きで思い付いたよ」
糸は燃えて塵へと変わり、風に飛ばされていく。
青年は視界を取り戻した。
「ご対面だぜ、スレッド!!」
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