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「――可愛い」
マルクスが小さくそう呟いたのが、わかった。
……可愛い。
(た、確かに俺は、マルクスに比べれば可愛いほうだろうけれど……)
精悍な顔立ちのマルクスに比べ、俺は童顔だ。
年齢よりも幼くみられることなんて日常的だし、「可愛い」と言われたことだって数えきれないほどにある。
なのに、どうしてなのだろうか。今、俺の心臓は早く音を鳴らしている。
「なぁ、キスしていいか?」
自分の耳を疑った。
(こいつ、今、なんて……)
聞き間違いじゃなかったら、「キスしていいか?」と聞こえたような気がする。
聞き返したい。でも、聞き返せない。
先ほど聞き返して、生々しい表現をされたところだ。
もしかしたら、今回もそういう風になるかも――と思ったら、どうしても聞き返せなかった。
「……なぁ」
マルクスが、俺の頬を撫でる。
かと思えば、顎をすくい上げられて半ば無理やり視線を合わせられた。
……マルクスのきれいな目が、仄かに欲情しているようにも見える。
(こいつ、絶対に勃たないとか、嘘だろ……!)
そう思うが、先ほど言った通り『俺が例外』ということなのかも。
そこまで思ったら、抗議をすることが出来なかった。
「……あの、さ」
手が自然とマルクスの衣服を掴んだ。
しわになるのもお構いなしに、ぎゅっと握れば、マルクスが息を呑んだのがわかる。
とくとくと早い心臓の音は、一体どっちのものなのか。それは、定かじゃない。
「試す、だけ、だったらいいけど……」
恥ずかしくて、視線を逸らす。
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