140人が本棚に入れています
本棚に追加
「なぁ、マルクス」
その気持ちをかき消すかのように、声を上げる。
マルクスは俺の言葉の続きをじっと待ってくれていた。その態度がいじらしく見えるのは、俺がおかしいのだろうか?
「俺たち、幼馴染だ。けど、それ以上に親友だ」
意地の悪い言葉だって、わかっていた。
でも、言わなくちゃならないと思った。
だって、期待させて裏切るくらいならば。今、ここでこいつの気持ちを木っ端みじんにするほうが、ずっといい。
そっちのほうが、ずっと優しい。
「だから、そういうの、考えられない」
「……ロドルフ」
正直、マルクスの性事情とか本当に「知らない」で蹴り飛ばしたかった。
もちろん、今の言葉だって蹴り飛ばしているつもりではあるのだ。ただ、もっと強く、きつく、蹴り飛ばしたかった。
「お前、ちゃんと医者に診てもらえよ。そうすれば、いつか治るだろうから」
医者だって万能じゃない。
もしかしたら、数年かかるかもしれない。逆に数日で治るかもしれない。
そこは定かではないけれど、今後も俺はマルクスの『親友』でいたい。それは、確かな本音。
「でも、正直見合いをする前にお前の気持ちがわかってよかったよ。……見合いして、返事した後だったら、狼狽えていただろうから」
肩をすくめて、そう言い切った。
俺に来ている縁談は、めちゃくちゃいい話だ。なので、断るという選択肢はほとんどない。
だけど、もしも、相手に会ったあとでマルクスに気持ちを伝えられていたら。
……こんな風に、断ることはできなかっただろう。
「な、マルクス」
マルクスの手を掴んだ。
ぎゅっと握れば、マルクスが控えめに握り返してくれる。
最初のコメントを投稿しよう!