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(こいつ、図体はでかいけど、実際は結構な怖がりだし)
騎士として従事し始めてから、血の類は大丈夫になったらしい。が、お化けとか。未だにそういうのはダメだそうだ。
そういうのには、俺のほうが昔からずっと強かった。
「俺、マルクスの親友でいたいんだ。……俺が結婚しても、お前が結婚しても。家族ぐるみで仲良くしていきたいって、思ってる」
それは所詮、俺の願望でエゴでしかない。わかっている。でも、それは俺の本当の気持ち。
「そういうこと、だから」
「童貞を拗らせた責任を取れ」と言われても、実際無理なのだ。
そもそも、それはマルクスの勝手なのだから。……俺は、ちっとも悪くないんだ。
そう思いつつ握った手を振りほどこうとすると、逆にマルクスに指を絡め取られてしまった。……は?
「そんな言葉で、俺が諦めると思っているのか?」
まっすぐに俺を見つめるマルクスの視線が、鋭い。胸につんざくような痛みを与えてくるほどに、鋭利だった。
「思えば、俺は物心ついたときから、ずっとお前に助けられてきた」
「……え」
「俺は方向音痴だし、口下手だし、魔法は全然だし、勉学だって苦手だ」
……こいつ、ここぞとばかりに自分の悪いところを挙げている。
そういうのを隠さないのはいいけれど、もうちょっと隠そうよ……と、思った。
まぁ、相手が俺だからここまで言うんだろうが。
「そんなとき、いつだってお前が助けてくれた。俺はロドルフに感謝している。……それだけだと、思っていた。あの日までは」
「……マルクス」
「あの日まで、俺も確かにお前のことを幼馴染で親友だと思っていた。……まさか、自分がお前に恋慕を抱いているなんて、想像もしていなかった」
はっきりと告げられた気持ちに、胸をぎゅっと締め付けられた。
……ダメだ、ダメだ。流されては、ダメだ。
(俺は、マルクスの伴侶になんて……なれない)
俺は末端男爵家の一人息子で、マルクスは名門伯爵家の次男。
家族ぐるみで仲がいいけれど、実際つり合いはしない。
……社交界でだって、そう言われている。知ってる。俺は、何度も何度も陰口をたたかれたから。
「嫌だったら、突き飛ばしてくれ。殴ってもいい、蹴ってもいい。だから――俺の暴走を、止めてほしい」
そこまで言ったマルクスが、俺の唇を指の腹でなぞって――また、唇を重ねてきた。
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