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唇に全神経が集中したような感覚に、陥った。
(……ぁ)
マルクスの舌が、俺の唇を割って口腔内に入ってくる。
ぬちゃりというような水音が耳に届いて、いたたまれなくなった。
「ぁ、あっ」
そして、腰に回される太い腕。
ぐっと自身のほうに引き寄せられて、ぴたりと身体が密着する。
もちろん衣服は着ているので、素肌で密着しているわけではない。
なのに、心臓がうるさい。どくどく、ばくばく。どう表せばいいかわからないくらい、鼓動が早い。
口腔内で逃げようとする俺の舌を、マルクスの舌が絡め取った。そのまま唾液を交換するかのように触れ合わされて、舌先を吸われて、身体がびくんって跳ねる。
こんなのダメだって、わかっているのに――。
(……気持いい)
頭がぼうっとしてきて、マルクスの手で与えられる快楽を享受したいって、思ってしまう。
絡めていないほうの手で、マルクスの衣服を強くつかむ。俺の手は、自分でも驚くほどに震えていた。
さらには、もっともっと快感が欲しいって、脳が訴えてきて。その所為で、おずおずと舌を差し出して、自らマルクスの舌に絡めた。
瞬間、マルクスの身体が震えたのがわかった。
「……調子、乗るけど」
唇をほんの少しだけ離す。吐息のかかる距離で、マルクスが甘くそう囁いた。
俺の目を見つめて、そう言ってくるマルクス。
その声にじんと身体の芯が熱を持って、忘れようとしていた気持ちがどんどん膨れ上がる。抑えきれなくなる。
(本当は、ずっと好きだった……)
本当の俺は、ずっとマルクスのことが好きだった。
いつからとか。そんな明確な時期はわからない。ただ、多分マルクスよりも自覚は早かったと思う。
けど、身分が違うとか。似合わないとか。
余計なことばっかり考えて、この気持ちにはふたをすることにしたのだ。
……まさか、両片想いみたいな関係だったなんて、想像もしていなかったけれど。
「なにも言わないっていうことは、いいっていうことか?」
マルクスが俺の額にこつんと自身の額をぶつけて、そう問いかけてくる。
……ダメ。嫌だ。無理だ。
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