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別に童貞自体が悪いことじゃない。事実、俺だってそうだし。
間抜けな声を上げた理由は、そういう理由じゃなく、ほかに二つある。
一つ目、まさかあれだけモテるマルクスが童貞だったという真実。そして、もう一つは――。
「……いや、なんでそれ、俺に言うんだ……?」
どうしてマルクスがそれを俺にカミングアウトしたかということだ。
(確かに、俺とマルクスは長い付き合いだけど……)
でも、かといって。相談する先を間違えている気しかしない。俺は自他ともに認める平々凡々の非モテ男だ。常に老若男女問わず言い寄られているマルクスとは全く違う。あ、この国では同性婚も可能なので、貴族の中にも男性同士、女性同士の夫婦がいる。
「お前だって、俺がいわゆる非モテだって知ってるよな……?」
近くにマルクスというモテる男がいたためなのか、俺の存在はかすみ続けていた。多分存在感がないとか、そういうレベルまで行っている。俺の勘でしかないけれど。
「……ロドルフ。お前、驚かないのか?」
「いや、ちょっとは驚いたよ」
どうやらマルクスは俺の疑問は無視するつもりらしい。そのため、マルクスの話のペースに合わせることにした。
そもそも、これはマルクスの悩み相談なのだ。俺がペースを握るのは少し違う。
「だってお前、ずっと人に囲まれてるし。いい感じの人とか、すでにいるんだって思ってた」
お茶を一口飲みつつ、そう零す。男でも女でも、こいつだったら選び放題だろうに。
「……だから、まさかだなって」
「そうか」
マルクスは俺の言葉に気を悪くした様子はない。ただ、その神妙な面持ちをした顔を、余計にしかめるだけだ。
……こいつ、多分相当悩んでるな。
付き合いの長い俺には、それがわかった。
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