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「けどさ、まぁ、そういうのデリケートな問題だし。……きっかけとか、機会とか。チャンスがあったら、大丈夫だって」
俺には言われたくないことかもしれない。だけど、今、こいつを励ますのにはこういうしかなかった。
出来る限り柔和に見える笑みを浮かべて、マルクスを励ます。……なんで童貞の俺が、励ましてるのかは知らない。
(俺だって励ましてほしいんだけど……)
こいつにはチャンスや機会があっただろう。が、俺には一度たりともなかった。
ただ、あえていうのならば――縁談の話が来ているのが、救いだろうか。
「お前はめちゃくちゃモテるし、いつかきっと――」
「――ロドルフ」
「ん?」
俺の言葉を遮るようにマルクスが声をあげる。なので、俺はきょとんとしつつマルクスの顔を見つめた。
その目が、俺を射貫いている。……心臓が、どくんと大きく音を立てた。
「チャンスとか、機会とか。多分、俺のはそういう問題じゃないんだ」
「……は?」
いや、こいつ一体なに言っているんだ?
(大体、そうじゃなかったら、ほかになにがあるんだっての……!)
好きな人がいるのならば、さっさと告白して恋人関係になればいいだろうに。
誰もこいつみたいな優良物件から告白されたら、断りはしないだろう。そういうことだ。
「五年ほど前、だろうか」
「……うん」
なんか昔話が始まった。
……これ、長くなるのだろうか? 長くなるんだったら、ちょっと気を緩めたいんだけれど……と、言える空気でもなく。
マルクスは言葉を続けた。……俺の気持ちも考えも、知らないから。
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