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「せ、責任取るって……」
「俺と結婚しろ」
意味がわからなかった。
その所為で俺がぽかんとしていれば、マルクスが俺の顎をすくい上げる。俺とマルクスの視線が絡み合って、上手く言葉に出来ない気持ちが胸中に芽生える。
心臓の鼓動がいつもよりも大きく聞こえる。
「い、意味わからないんだけど。……大体、マルクスが一生童貞だったとしても、俺、知らないからっ!」
そうだ。それはマルクスの事情だ。
親友として、幼馴染として。役に立ちたい気持ちは確実にある。だけど、限度がある。
(そもそも、責任取るとか意味わかんないんだけど……)
俺、一つも悪くないのに責任取れって言われてるんだけど……。
「俺、悪くないだろ!」
マルクスの胸をたたいて、そう叫ぶ。必死にたたくのに、非力な俺ではマルクスに大したダメージを与えられないらしい。マルクスの視線が温かくなったのがわかった。
(そりゃあ、騎士のマルクスとひ弱で非力な俺じゃあ、全然違うけど!)
でも、少しくらいダメージを受けてくれたっていいだろ!
そう叫び出したい気持ちを抑え込み、俺は何度か深呼吸を繰り返す。落ち着け、落ち着け、落ち着け……。
「そんなのお前の事情だし、俺には――!」
「――縁談が、来てるんだろ?」
俺よりも先に、マルクスがその事実を口にした。
ごくりと息を呑む。こいつ、知ってたのか……。
「相手誰? 女? それとも男? 爵位は? 仕事は?」
マルクスがぐっと顔を近づけてきて、俺にそう問いかけてくる。いや、これは問いかけなんかじゃない。一種の尋問である。
答えるまで終わらない、取り調べみたいだと思った。
「……そこまでマルクスに教える義理、ないだろ」
幼馴染っていうだけで、結婚話にまで関与されたくなかった。
そんな風に思って顔を背ければ、マルクスが「関係ある」とはっきりと言う。
「俺はロドルフが好きだから」
まっすぐに見つめられて、愛の告白をされた。
(い、いたたまれないっ……!)
愛の告白とか、正直少しだけ憧れていた。が、この状態はいたたまれない。しかも、相手が長年親友として付き合ってきた幼馴染とか……。
しかも、ここまで言われたら――。
(悪い気が、しない……)
悪くはないなって、思ってしまう。現金すぎる俺の頭は、自然とそんな風に考えていた。
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