防御魔法

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防御魔法

 約束の三月を間近に控えたある日。ルナリアはミハイルの私室の扉をコンコンとノックした。  ここ数週間、ミハイルはルナリアへと掛けられるだろう召還の術への防御魔法を構築するため、部屋に篭りがちになっていた。ルナリアは、今日も私室で試行錯誤しているミハイルのため、淹れたてのハーブティーを持ってきたところだった。 「ミハイル、お茶を淹れましたよ。少し休憩しませんか?」 「ああ、ありがとう。いただくよ」  ティーセットの盆を棚に置き、並んでベッドに腰掛ける。 「防御魔法はほぼ出来上がったから、完成したら君に掛けよう」 「まあ、間に合ってよかったです!」 「ああ、だが不安は拭えないな……。万が一防御に失敗した場合、私が君と一緒に二百年後へ転移することができればよいのだが……」  寝る間も惜しんで研究してくれているのだろう。ミハイルの目の下にはうっすらと隈ができ、少しやつれている様子だった。 「……私は詳しいことは分からないのですが、時間転移の魔法は、過去へと飛ばすだけで、未来へと転移することは出来ないそうなのです。例外として、過去転移した人を喚び戻すことだけが可能だとか」  ルナリアも、ミハイルと一緒に元の世界に戻れたらどんなによいかと思っていたが、それは叶わぬ夢だった。 「そうか……。それなら、やはり防御魔法に望みを懸けるしかないな。向こうもまさか防御されるとは思っていないだろうから、裏をかけるはずだ」 「ええ、きっと大丈夫です。私はミハイルを信じています。それに、私にはこのお守りがありますから」  ルナリアはポケットから一枚の栞を取り出した。白い押し花の栞だった。 「これは、月麗花……?」 「はい、ミハイルがくれた月麗花を押し花にしたんです。月麗花は願い事を叶えてくれる言い伝えがあるでしょう? 私の願いは、貴方と共にあることだから……」  ミハイルが、ルナリアの頭をそっと胸元に抱き寄せた。 「君の願いは、私が必ず叶える」  ルナリアは、ミハイルの温もりに包まれながら、この穏やかな時間がいつまでも続きますようにと願った。
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